41:呪いの真実

 サニーとシグルスが長老の家に戻った時、アムリアも最初からそこを動いていなかったようにすまして立っていた。
 ふたりを迎える仲間たちが安堵の表情を浮かべたのは、一足先に戻っていた彼女から経緯を聞いたからでもあった。

「もう、遅いわよ!」
「おかえりなさい、シグルス」
「あ、ああ……取り乱して悪かった」

 当たり前のように受け入れる仲間たちに、シグルスは今更ながら気恥ずかしくなる。
 気さくなウインクをして見せるプリエールに、穏やかに微笑むモーアン。他の仲間たちにとっても、もうシグルスは立派な旅の仲間なのだ。

「ハーフエルフの呪いについては精霊たちから聞かせてもらったわ。里の皆にも、失礼な態度をとらないよう言っておくわね」
「ありがとう……ございます」

 族長ケラスィーヤはまだ戸惑いが抜けきらないシグルスに歩み寄り、華奢な手をぽんと彼の肩に置いた。

「女神の力を託され、呪いに負けずここまで来た貴方は“希望の子”……レニと同じハーフエルフの血が、人間とエルフ両方から注がれた愛が、貴方を守りますように」
「…………」

 ようやく幼き日の記憶を取り戻したばかりのシグルスには、まだまだ実感が薄く、内心複雑であろうことは彼の面持ちから感じ取れる。

「俺はまだ、貴女の言葉の全てを受け入れることはできません」
「それでいいわ。それだけのことをあたくしたちは貴方にしたもの。ただ……」
「ただ?」
「全てを終わらせて無事に帰ったら、必ず顔を見せにいらして。森は、もう貴方がたを拒まないわ。ミハリソウも貴方がたを気に入ってしまったようですもの、ね」

 返事はなく、一礼をするとシグルスはくるりと仲間たちの方へ踵を返す。
 そうして挨拶を済ませた一行が退出すると、長の家にはケラスィーヤとアムリアが残るのみとなった。

「……もう、二度と会えないかと思いました。世界の危機にそれが叶うなんて……」

 噛み締めるようにアムリアが呟く。
 そもそも交流を閉ざしていたこの森に外界の者が訪れること自体、もうないことだと思われていたのに。
 シグルスが悪魔に陥れられてディフェットを出ることになり、さまざまな冒険を経て……そうでなければ叶わない親子の再会だなんて。

「強く逞しく、良い男になったわね」
「はい、それはもう……凛々しい目元やさらさらの黒髪はレオンによく似……ごほん!」

 うっかり惚気が止まらなくなりそうなところを慌てて咳払いで抑えるアムリア。
 互いに一目惚れだった異種族の夫婦は、出会った当初から結婚しても変わらずこんな調子だったとか。

「今は、無事を祈りましょう。それから彼らの旅のサポート。それがあたくしたちにできることよ」
「……はい!」

 ふとケラスィーヤが己の手に視線を落とすと、枯れ枝のように細く、震えていた。
 彼女はそれをぎゅっと握り締め、目を伏せる。

(もうしばらくは死ねない理由ができたわね……レニ、ベルシュ様、力をお貸しくださいまし)

 千年。遠い遠い時代からずっと生きてきた彼女も、長い眠りにつく時が近いのだろう。
 けれども今は、もう少しだけ……瞼の裏に映る、懐かしい面影を浮かべながら。
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