39:大樹海の番人

 シルワの大樹海には番人がいる。
 人語を解する不思議な花、ミハリソウ。クールでイカした彼の力をもってすれば、森に踏み入った者を弄び、もと来た入口へ帰すことなどお手の物。
 哀れな迷い人は同じ道をぐるぐる回らされ、疲弊したのち、己に何が起きたのかもわからないままただ帰されるのだ……
 というのが、ミハルことミハリソウの恐ろしい力らしい。

『……なのになんでおめぇらはここまで辿り着いてんだよぉ!?』
「なんか甘い匂いとちょうちょ追っかけてたら自然とここに来たよ」
『シィィィィット! 溢れ出るオレっちの魅力がおめぇらを引き寄せちまったってぇワケかい!』
「そう言われるとなんかやだなぁ……」

 同じような景色が続く森の中で他に行ってみようと思える目印がなかっただけの話なのに、そう得意げに言われるとなんだか釈然としない。
 サニーがむうっと口を尖らせると、プリエールが「あら」と首をかしげる。

「でも、侵入を許しちゃったわけよね。森の番人がそんなに抜けてていいのかしら?」
『いやいやおかしいぜ。それでもこの森には侵入者を惑わせる魔法がかけられてんだ。蝶を追いかけたぐらいじゃ……』
『そんなモンこいつらにゃ効かねえよ』

 と、現れたのは三角帽子の小人。地の精霊ガネットがミハルの前に姿を見せた。
 途端にミハルの背筋……もとい、茎がぴんと伸び、気をつけの姿勢になる。

『なっ、だだだ、大精霊ガネット様ァ!? どうしてここに……』
『こいつらは女神レレニティアから“聖なる種子”を託され、俺や他の精霊たちと契約した。この世界の存亡のために戦ってる若者だ』
『なっ、なんですとォ!?』

 先程までの軽薄そうな雰囲気から一転、葉っぱで揉み手のような仕草をしながら地精霊を窺うミハル。
 あまりの変わりようにぽかんとするエイミたちの中で、モーアンがぽんと手を打った。

「ああ、そっか。ミハルも植物には違いないから大地とは切っても切れないもんだよね。そりゃあ頭も上がらないわけだ」
『おう。そういうこった。それで、だ』

 ガネットはにやりと笑うとミハルの眼前まで迫り、圧を送る。

『俺たちはベルシュに会いに来た。あいつの力が必要でな。まさか世界の危機にこの俺の頼みが聞けねえってこたぁねえよな……?』
『け、けどオレっちだってエルフから……』
『あ?』
『……うう』

 しおしおと萎れるミハル。どうやら通して貰えそうで、ガネットがエイミたちを振り返りウインクして見せた。

「こ、これでいいんでしょうか……?」
『なんだかちょっと可哀想な気がしてきたわね……』
「板挟みの立場って、いろいろとつらいよねぇ……」

 妙に実感のこもったモーアンの呟きに、一同の視線が集まる。
 なにはともあれ、これで森の奥へと進むことができそうだ。
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