38:再戦の誓い

「ジャーマ、体は大丈夫か?」

 フォンドたちの家に仲間たちが集まり、中でまったり過ごしたり広い庭で手合わせをしたりと思い思いに楽しんでいたのはつい先刻までのことだった。
 宿屋に戻っていったみんなを見送ったフォンドは、自室のベッドで休んでいたジャーマの様子を見に顔を出す。

「……やっと騒がしいのが帰ったか」
「お前だって割と楽しそうだったよな……?」

 すかさず鋭い眼光を返されて、フォンドは慌てて本来の話題に戻った。

「それで、どうなんだ? 月の精霊がガルディオの術の時間を退行させてお前の体から出してくれたっていうけど……」

 浅黒い肌に刻まれていた黒い紋様は、今は綺麗さっぱり消え去っている。
 ジャーマは自分の右腕を見つめながら、しみじみと口を開いた。

「少し休めば元通りに……いや、今はむしろ調子がいいぐらいというか、妙にすっきりした気分だ。求めていた答えを見つけたから、だろうな」
「求めていた答え?」
「フォンド……俺はまた旅に出るつもりだ」

 えっ、とあからさまに驚き顔のフォンドに、ジャーマは眉間に思いっきりシワを寄せる。

「……一応言っておくが、今すぐじゃないぞ」
「あっ、なんだ違うのか」
「ったく……あんな風に頭を下げて話をつけておいてすぐいなくなるわけがないだろう?」

 思考を読まれたフォンドが気まずそうに頬をかく。
 そんな彼をじとりと睨むと、ジャーマは溜息と共に話を再開した。

「この世界に平和が戻って、グリングランの復興の手伝いが終わったら……つまり、まずはお前がガルディオの奴をブッ倒してからだ」
「旅に出て、どうするんだ?」
「己の未熟さを見つめなおし、世界の広さに触れる。前はただ漠然と強くなりたいぐらいしか考えていなかったが……今なら得るものが多そうだ」

 一年前にこの家を飛び出した時、ジャーマの頭には強くなることしかなかった。
 力ばかりを求めるその心が、ガルディオに利用されるきっかけとなってしまったのだろう。
 フォンドと戦って、九死に一生を得て、種族も、生まれた世界も越えたラファーガの愛情を知って。すっきりした頭で視野が広がった今のジャーマなら、今よりずっと強くなれるはずだ。

「お前との再戦は俺がその旅から帰ってきた時だ。お前がガルディオを倒そうが世界を救おうが、俺は負けるつもりはない。だからまずはあんな奴などさっさと倒して、帰ってこい」
「ジャーマ……」

 これまでの旅を経て大きく成長を遂げたフォンドに、誘惑に負け、力に溺れてしまった今の自分では敵わない。けれどもそれは“まだ”というだけの話だと含めて。
 そんなジャーマの宣言に、フォンドは“その時”の光景を思い浮かべ、桔梗色の瞳をきらめかせた。

「おう! じゃあ、兄ちゃん頑張るぜ!」
「誰が兄だ誰が。歳は同じだろうが!」
「えぇー」

 突き合わせようと突き出した拳は、ぱしんとはたかれる。
 噛み合わねえなあ、とからから笑うフォンドを、ジャーマはまた睨むのだった。
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