38:再戦の誓い

 エイミたちが月精霊との契約を済ませた頃にはラファーガたちも落ち着いて、こちらの輪に加わってきた。
 ジャーマはガルディオの術からは解放されたのだが肉体のダメージが残っており、モーアンの治療を受けて不本意そうにラファーガに支えられていた。

「世話になったな。わしはジャーマを連れてグリングランに戻る。しばらくうちで休ませないといかん」
「ジャーマ……」
「チッ、哀れむような目はやめろ。これは俺の自業自得だ」

 じっと見つめるフォンドの視線を忌々しそうに避けるジャーマ。
 強くなりたいあまり魔族の術に安易に飛びついた結果なのだから、受け入れなければならない。
 その誘惑を突っぱねることもできたはずだ、と彼は静かに俯いた。

『急にスナオになったわねぇ』
「きっと拳を交えて全力でぶつかり合って、何か思うところがあったのね」

 自分でも心当たりがあるのか、うんうんと頷くエイミ。
 おっとりとしたお姫様の雰囲気で、彼女は相変わらず考え方が武人寄りだった。

「本当なら俺もいますぐガルディオの奴を殴りにいきたいが……」
「ジャーマはまず帰ったらみんなにちゃんと謝れ。そんで今度はお前がグリングランを守るんだ」
「うぐっ」

 痛いところを突かれたジャーマが押し黙る。
 かつて彼が魔物をけしかけて破壊したグリングランは、彼をここまで育ててくれた優しく穏やかな町。その恩を一度は仇にしてしまったことから、ばつが悪そうな顔をするが……

「……そうだな。へなちょこフォンドの代わりに町を守る奴が必要だからな」
「だっ誰がへなちょこだ! さっきの戦いぶり見たろ!?」
「フン、一対一なら俺の方が強い!」
「ほとんど一対一みたいなもんだっただろ! オレ勝ったし!」
「あんなもの無効だ無効!」

 しおらしい雰囲気はどこへやら、ぎゃあぎゃあと喚きだすジャーマとフォンド。こうしていると年頃の兄弟みたいで、つい先程まで死ぬか生きるかの状態だったとは思えない。

「その辺にしとけ」
「「ぐえっ」」

 ひとしきり騒いだふたりの頭を、もうそろそろ良い頃合いだとばかりにラファーガが上から押さえつける。
 手慣れた様子は、きっと日頃よくある光景だったのだろうとエイミたちに想像させた。

「あらあら、九死に一生を得たばかりとは思えないわねぇ」
「はは、本当だね。でも……」

 プリエールの言葉に笑うモーアンは、直後、少しだけ哀しげな目をする。

「この光景が失われなくて、本当によかったよ」

 僕も、いつか取り戻せるかなあ。
 こっそり呟いたそれは、今は行方の知れない幼馴染に向けて。
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