37:家族
月精霊の魔力である薄いレモンイエローの光のヴェールはボロボロになったジャーマの肉体を次第に変化させていく。
まず真っ赤になってしまった肌は元の色に。肥大化した筋肉も、萎むのではなく以前の状態に戻っていく。
「月の精霊は“時”を司る……確かそう言っていましたね」
『その通りじゃ。ごく限定的ではあるが、ものの時間を操作することができる』
エイミの言葉にクレーシェが頷き、補足する。
たとえば古びた物を新品同様に巻き戻したり、逆に時間を進めて熟成させたり。ものの時間を操作するとは、そういうことだ。
『今わらわが操作したのは、この者の体の奥深くまで根を張ってしまった魔族の呪いそのものの時間ぞ』
「呪いの、時間……?」
『つまり進行じゃの。最後には呪いが此奴の体に入る前まで巻き戻せる』
クレーシェが説明している間にしゅるしゅると、ジャーマの体に拡がっていた黒い紋様が巻き戻るようにして消えていく。
全身から右肩の一点まで後退していった紋様は、最後にすうっとジャーマの体から離れ……
『こうなれば、あとは“聖なる種子”の力で容易に消滅させられようぞ』
「は、はいっ!」
宙を漂う黒い霧状の魔力を、すかさずエイミが浄化する。
手遅れかと思われた呪いは、こうして呆気なく消え去った。
「た、助かった……のか……?」
浅黒い肌に炎を思わせる赤髪。フォンドがよく知るいつもの姿に戻ったジャーマは、呆気にとられた様子で呟いた。
(守る守るが口癖の甘ったれフォンドが、本当に俺のことまで守ったっていうのか……いや、)
本当は、気づいていた。
フォンドもずっと努力を重ねていたんだ。
何でもないようなヘラヘラした顔で軽々と、なんて、ただ認めたくないがゆえの言いがかりだと。
「ジャーマ……!」
と、すかさずフォンドが飛びつき、ラファーガがその上から覆い被さるようにしてジャーマを抱き締める。
「ぐお!?」
「ばかやろー、心配させやがって!」
「良かった。よく無事でいてくれた……!」
涙を浮かべながら、髪がぐちゃぐちゃになるまで乱暴にジャーマの頭を撫で回すふたり。やめろ、はなせと怒号が飛んでもお構い無しで、遠巻きに眺めていた仲間たちが微笑む。
『これを見て家族の情がないだなんて言えないわね。あの子、ちゃんと愛されてるわ』
「本当にな……あの暑苦しさ、なんだかブルック隊長を思い出す」
シグルスの赤い眼が、遠くディフェットで暮らす父親がわりの上司を想い穏やかに緩む。
以前は鬱陶しがっていたあの暑苦しさが今は懐かしく、朗らかな笑顔をまた見たくなった。
「彼に聞きたいことはいろいろあるんだけど……もう少しだけ、このまま放っておこうか」
「そうですね。フォンド、嬉しそう……」
血の繋がりも、種族も、生まれた世界すらも関係ない“家族”。
そんな彼らの、ようやく叶った再会なのだから――モーアンは、そっと心でそう呟くのだった。
まず真っ赤になってしまった肌は元の色に。肥大化した筋肉も、萎むのではなく以前の状態に戻っていく。
「月の精霊は“時”を司る……確かそう言っていましたね」
『その通りじゃ。ごく限定的ではあるが、ものの時間を操作することができる』
エイミの言葉にクレーシェが頷き、補足する。
たとえば古びた物を新品同様に巻き戻したり、逆に時間を進めて熟成させたり。ものの時間を操作するとは、そういうことだ。
『今わらわが操作したのは、この者の体の奥深くまで根を張ってしまった魔族の呪いそのものの時間ぞ』
「呪いの、時間……?」
『つまり進行じゃの。最後には呪いが此奴の体に入る前まで巻き戻せる』
クレーシェが説明している間にしゅるしゅると、ジャーマの体に拡がっていた黒い紋様が巻き戻るようにして消えていく。
全身から右肩の一点まで後退していった紋様は、最後にすうっとジャーマの体から離れ……
『こうなれば、あとは“聖なる種子”の力で容易に消滅させられようぞ』
「は、はいっ!」
宙を漂う黒い霧状の魔力を、すかさずエイミが浄化する。
手遅れかと思われた呪いは、こうして呆気なく消え去った。
「た、助かった……のか……?」
浅黒い肌に炎を思わせる赤髪。フォンドがよく知るいつもの姿に戻ったジャーマは、呆気にとられた様子で呟いた。
(守る守るが口癖の甘ったれフォンドが、本当に俺のことまで守ったっていうのか……いや、)
本当は、気づいていた。
フォンドもずっと努力を重ねていたんだ。
何でもないようなヘラヘラした顔で軽々と、なんて、ただ認めたくないがゆえの言いがかりだと。
「ジャーマ……!」
と、すかさずフォンドが飛びつき、ラファーガがその上から覆い被さるようにしてジャーマを抱き締める。
「ぐお!?」
「ばかやろー、心配させやがって!」
「良かった。よく無事でいてくれた……!」
涙を浮かべながら、髪がぐちゃぐちゃになるまで乱暴にジャーマの頭を撫で回すふたり。やめろ、はなせと怒号が飛んでもお構い無しで、遠巻きに眺めていた仲間たちが微笑む。
『これを見て家族の情がないだなんて言えないわね。あの子、ちゃんと愛されてるわ』
「本当にな……あの暑苦しさ、なんだかブルック隊長を思い出す」
シグルスの赤い眼が、遠くディフェットで暮らす父親がわりの上司を想い穏やかに緩む。
以前は鬱陶しがっていたあの暑苦しさが今は懐かしく、朗らかな笑顔をまた見たくなった。
「彼に聞きたいことはいろいろあるんだけど……もう少しだけ、このまま放っておこうか」
「そうですね。フォンド、嬉しそう……」
血の繋がりも、種族も、生まれた世界すらも関係ない“家族”。
そんな彼らの、ようやく叶った再会なのだから――モーアンは、そっと心でそう呟くのだった。
