37:家族

 精霊月の光が降り注ぐセレネ島の中心、遠く忘却の時代に滅ぼされた都の廃墟。
 日に焼けた浅黒い肌は絵の具で塗り潰したような真っ赤な色になり、呼吸は荒く、理性など今にも消し飛んでしまいそうな興奮した顔の変わり果てた兄弟――かつてグリングランを襲撃し姿を消したジャーマを前に、フォンドは静かに拳を構えた。

「……そうやって、いつも何でもないようなカオしやがって」
「え?」
「いつだってそうだッ! 俺が力を得ようと必死に努力すれば、いつだってお前はヘラヘラしながら軽々と……!」

 ジャーマは力強く地を蹴ると一気にフォンドの眼前へ迫り、そのまま拳を叩き込む。
 咄嗟に防いだ腕が折られてしまいそうな衝撃は、素早くかけられたエイミの防御魔法で和らいだ。

「サンキュ、エイミ!」
「今はあちらも強化されています。気を抜かないで……!」

 そうしてフォンドにさらなる補助魔法が続けてかかる。ひとつは攻撃力を上げるもの。もうひとつは……

「そいつの頭を冷やしてやれ」
「シグルス……」

 彼の両の拳と足が蒼い輝きを纏い、水の精霊の力が付与される。
 全身が炎と化してしまったようなジャーマにはよく効くだろうとシグルスがかけた魔法だ。

「くそっ、ジャマをするなァ!」
「っ!」

 いきり立ったジャーマが雄叫びをあげると、周囲からぞろぞろと魔物が集まる。
 グリングランを襲撃したパメラも魔物を率いていたが、どうやらこれもガルディオに与えられた力のひとつらしい。
 仲間たちは魔物の相手に追われ、奇しくもフォンドとジャーマの一騎討ちになった。

「うわわ、これじゃ兄ちゃんを助けられないよー!」
「信じましょう! フォンドなら、きっと大丈夫です!」

 コウモリや狼に似た姿の魔物はすばしっこく、集中して対処しないと思わぬ苦戦を強いられそうだ。
 勢い良く飛び掛かってきた狼の一匹を槍で薙ぎ払い、思いっきり吹っ飛ばす。

『其奴らは夜の闇や月の魔力で力を増す魔物ぞ。この常夜の島では通常より数段強くなっておる』
「じゃあ一回その魔力止めてもらえたりしない?」
『わらわの領域でなにゆえわらわが配慮せねばならぬ? この程度難なく退けてみせよ』
「……がんばりまーす」

 尊大な態度を崩しもしない月精霊は、がっくりと肩を落としたモーアンを見下ろし、ふんと鼻を鳴らした。

「それじゃあまとめて、やっちゃうわよ!」

 魔法書に手をかけたプリエールの、もう片方の手に魔力が集まる。

「拡散せし焔よ、我が敵を捉え、爆ぜよ!」

 赤い光が炎へと変わり、火球となって彼女を中心に標的と定めた魔物めがけて放たれた。
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