35:戦いのあと
『あのふたり、無事にドラゴニカ城へ受け入れられたぞ』
ノール・エペ山ふもとのピエモ村に着き、未だ無人の宿屋で休息をとっていたエイミたちのもとに、ヴェルソーたちの付き添いをしていた水の精霊アクリアが戻ってきた。
魔族を疑って、というよりも、竜たちが話も聞かず激昂する可能性を考えての仲介役として。彼女はしっかり役目を果たしたようだ。
彼女の言葉を受け、プリエールが微笑む。
「ありがとう、アクリア。なんだか精霊を使いっ走りにしちゃったみたいで悪いわね」
『いや、良い。竜たちの中には相棒を喪った者もいた。事情を聞かされなければ、相棒が眠る墓も知らなかったろうしな』
アクリアが語るには、相棒を亡くした竜はそのこと自体には気づいていたようだ。
ただ、正気に戻った頃には彼女がどこにいるかまでは……鱗生人たちの計らいで墓に添えられた持ち物から、もしかしたらと察してはいたものの、確信したのは彼らの話を聞いてからだったという。
竜は彼女の墓の前にじっと座り込み、目を伏せていた――そんな話を聞いて、エイミたちも胸を締めつけられた。
『ドラゴニカのこと、魔族のことだけじゃないわ。悪魔も、禁呪の魔法士も、多くの人々を傷つけ、命を弄んでいる』
「だから僕たちは精霊探しの続きをしなきゃ、ね」
ミューに続いてモーアンがそう言うと、テーブルの上に地図を広げた。
「残る精霊は月と木……彼らの住処について、知っているかい?」
エイミとフォンド、それにサニー――奇しくも、仲間の中で特に素直な三人である――がそれぞれ首を傾げたり、横に振ったりした。
そこに現れたのは光と闇の精霊たちだ。
『クレーシェとベルシュはどちらも人里から特に離れたところを住処にしとるからのう』
『だが、今ならばシュヴィナーレの力を借りて近くまで運んで貰えるだろう。船が出ずとも問題ない』
コクヨウは月の、ディアマントは木の精霊の住処をそれぞれ地図上で指し示した。
月の精霊は各大陸から離れた三日月の形をした島に、木の精霊は西大陸……騎士王国ディフェットの南東にある島の森にいるらしい。
「セレネ島にエルフの森……確かに、普段なら人が近づかないところだね」
「エルフの森……」
ぽつりと呟いた、シグルスの沈んだ声。彼はエルフと人間の間に生まれたハーフエルフで、特にエルフからは疎まれる存在だ。
この地点からの距離はどちらも大差ないのだが……
「とりあえず先にセレネ島に行こうよ」
ぴょこん、とサニーが顔を出し、シグルスを窺う。
「シグ兄だってちょっと考える時間欲しいっしょ?」
「サニー……」
「そうですね。どちらが先と決まっている訳ではありませんし、わたしも賛成です」
彼女の言葉にエイミも同意すると、残る仲間たちからも反対の声はあがらなかった。
「はじめから置いていく選択肢はないわよ。まぁ、行きたくなかったら待っててもいいけどね」
「!」
シグルスの目が驚きに瞬き、直後伏せられる。その口許は僅かに緩んで。
「俺を置いて行ったら困るのはあんたらだろ」
「はい。シグルスさんも大事な仲間の一員ですからね!」
「……お前はホント素直なヤツだな」
裏表も何もないエイミのストレートな物言いに毒気を抜かれたシグルスは、照れ隠しに彼女の額をぴんと弾いてやる。
小動物のような悲鳴があがると、その場に和やかな笑いが起こり……そんな彼らを、精霊たちはどこか懐かしげに見守っていた。
ノール・エペ山ふもとのピエモ村に着き、未だ無人の宿屋で休息をとっていたエイミたちのもとに、ヴェルソーたちの付き添いをしていた水の精霊アクリアが戻ってきた。
魔族を疑って、というよりも、竜たちが話も聞かず激昂する可能性を考えての仲介役として。彼女はしっかり役目を果たしたようだ。
彼女の言葉を受け、プリエールが微笑む。
「ありがとう、アクリア。なんだか精霊を使いっ走りにしちゃったみたいで悪いわね」
『いや、良い。竜たちの中には相棒を喪った者もいた。事情を聞かされなければ、相棒が眠る墓も知らなかったろうしな』
アクリアが語るには、相棒を亡くした竜はそのこと自体には気づいていたようだ。
ただ、正気に戻った頃には彼女がどこにいるかまでは……鱗生人たちの計らいで墓に添えられた持ち物から、もしかしたらと察してはいたものの、確信したのは彼らの話を聞いてからだったという。
竜は彼女の墓の前にじっと座り込み、目を伏せていた――そんな話を聞いて、エイミたちも胸を締めつけられた。
『ドラゴニカのこと、魔族のことだけじゃないわ。悪魔も、禁呪の魔法士も、多くの人々を傷つけ、命を弄んでいる』
「だから僕たちは精霊探しの続きをしなきゃ、ね」
ミューに続いてモーアンがそう言うと、テーブルの上に地図を広げた。
「残る精霊は月と木……彼らの住処について、知っているかい?」
エイミとフォンド、それにサニー――奇しくも、仲間の中で特に素直な三人である――がそれぞれ首を傾げたり、横に振ったりした。
そこに現れたのは光と闇の精霊たちだ。
『クレーシェとベルシュはどちらも人里から特に離れたところを住処にしとるからのう』
『だが、今ならばシュヴィナーレの力を借りて近くまで運んで貰えるだろう。船が出ずとも問題ない』
コクヨウは月の、ディアマントは木の精霊の住処をそれぞれ地図上で指し示した。
月の精霊は各大陸から離れた三日月の形をした島に、木の精霊は西大陸……騎士王国ディフェットの南東にある島の森にいるらしい。
「セレネ島にエルフの森……確かに、普段なら人が近づかないところだね」
「エルフの森……」
ぽつりと呟いた、シグルスの沈んだ声。彼はエルフと人間の間に生まれたハーフエルフで、特にエルフからは疎まれる存在だ。
この地点からの距離はどちらも大差ないのだが……
「とりあえず先にセレネ島に行こうよ」
ぴょこん、とサニーが顔を出し、シグルスを窺う。
「シグ兄だってちょっと考える時間欲しいっしょ?」
「サニー……」
「そうですね。どちらが先と決まっている訳ではありませんし、わたしも賛成です」
彼女の言葉にエイミも同意すると、残る仲間たちからも反対の声はあがらなかった。
「はじめから置いていく選択肢はないわよ。まぁ、行きたくなかったら待っててもいいけどね」
「!」
シグルスの目が驚きに瞬き、直後伏せられる。その口許は僅かに緩んで。
「俺を置いて行ったら困るのはあんたらだろ」
「はい。シグルスさんも大事な仲間の一員ですからね!」
「……お前はホント素直なヤツだな」
裏表も何もないエイミのストレートな物言いに毒気を抜かれたシグルスは、照れ隠しに彼女の額をぴんと弾いてやる。
小動物のような悲鳴があがると、その場に和やかな笑いが起こり……そんな彼らを、精霊たちはどこか懐かしげに見守っていた。
