34:取り戻すための戦い
床も壁も破壊され、見る影もない玉座の間。ガルディオの術で強化された魔族にどうにか勝利したエイミたちは、壁に拘束した敵に詰め寄る。
『さて、どうしてくれようかしら?』
「知ってること話して貰おうじゃねえか。魔界にはどうやって行くのか、とかな」
バキバキと腕を鳴らすフォンドが今一番知りたいことはそこだった。ラファーガやジャーマを探しに行くにしても、ジャーマにかけられた術のことを思えば、術者であるガルディオを倒しに魔界へ赴くのが手っ取り早いだろう。
「だ、誰が話すかよ! おい魔物ども、俺様を助けやがれっ!」
「残念だけど、ここに来るまでに城内の魔物は倒してきたし、僕たちの仲間がこの城に結界を張り直したから新たな魔物が現れることもないよ」
「な……!?」
もう一箇所、ここの結界を張れば魔族も簡単には入れなくなるはずだ。辺りを見回せば、玉座の後ろに古びた女神像が佇んでいた。
「チクショウ、まだ負けてねえ! もっと、もっとチカラを引き出して……!」
「!」
男が全身に力を込めると緑の肌が真っ赤になり、浮き出ていた紋様がさらに拡がり、四肢を覆っていた氷にぴしりとヒビが入りだす。
再び戦うことになるのかと全員が武器を構え直した、が。
「あ……?」
びくん、男の体が跳ね、大きく目を見開く。
肥大化していた筋肉がみるみる萎み、あちこちに突き出たトゲも、もともとあった頭のツノも、砕けてサラサラと形を失っていく。
弱々しくなっていく姿に、エイミたちはこの魔族がもう“終わる”のだと悟った。
「げ、限界……? そんな、嫌だ、ガルディオ様ァ!」
「な、なんだ!?」
「苦しい、苦しい! し、死にたくな……ガハァッ!」
激しくもがいていた男が突然動きを止め、だらりと頭を垂れる。全身が真っ黒い炭のようになり、ツノやトゲと同じく砂のように跡形もなく散ってしまう。
「そん、な……」
これがガルディオの術のせいだというのか。パメラやジャーマも同じ呪いを受けているのだとしたら……
『ガルディオに逆らう以外でも、負けたからか、それとも体の限界を超えたからなのか……』
「何にせよ、命を命とも思っていない術だね……」
男の様子を見る限り、ただ力を授かったと思っていただけだろうか。最期の悲痛な叫びは、命を握られていた、捨て駒扱いだったなどと知らないように見えた。
フォンドが知る、力に溺れグリングランで暴れていたジャーマのように――旅立つ直前の光景を思い出し、フォンドの拳がぐっと握られる。
「……させねえ。ジャーマは兄弟同然に育った大事な家族なんだ。こんな終わり方させてたまるもんかよ……!」
「フォンド……」
「女王様……お前の姉ちゃんも、絶対に助けようぜ、エイミ!」
「はい……!」
エイミは強く頷くと、荒らされた玉座の間を見渡す。
決して気持ちの良い勝利ではないし、魔界の情報も得られなかった。
それでも、確かで大きな一歩がある。
(姉様、みんな……ついに、ドラゴニカの城を取り戻しました……!)
壊された城は、再建すればいい。そこに未来があるのなら、時間がかかっても、一歩一歩。
そしていつか、その再建の光景に姉も……新たな決意を胸に、エイミはギュッと表情を引き締めるのだった。
『さて、どうしてくれようかしら?』
「知ってること話して貰おうじゃねえか。魔界にはどうやって行くのか、とかな」
バキバキと腕を鳴らすフォンドが今一番知りたいことはそこだった。ラファーガやジャーマを探しに行くにしても、ジャーマにかけられた術のことを思えば、術者であるガルディオを倒しに魔界へ赴くのが手っ取り早いだろう。
「だ、誰が話すかよ! おい魔物ども、俺様を助けやがれっ!」
「残念だけど、ここに来るまでに城内の魔物は倒してきたし、僕たちの仲間がこの城に結界を張り直したから新たな魔物が現れることもないよ」
「な……!?」
もう一箇所、ここの結界を張れば魔族も簡単には入れなくなるはずだ。辺りを見回せば、玉座の後ろに古びた女神像が佇んでいた。
「チクショウ、まだ負けてねえ! もっと、もっとチカラを引き出して……!」
「!」
男が全身に力を込めると緑の肌が真っ赤になり、浮き出ていた紋様がさらに拡がり、四肢を覆っていた氷にぴしりとヒビが入りだす。
再び戦うことになるのかと全員が武器を構え直した、が。
「あ……?」
びくん、男の体が跳ね、大きく目を見開く。
肥大化していた筋肉がみるみる萎み、あちこちに突き出たトゲも、もともとあった頭のツノも、砕けてサラサラと形を失っていく。
弱々しくなっていく姿に、エイミたちはこの魔族がもう“終わる”のだと悟った。
「げ、限界……? そんな、嫌だ、ガルディオ様ァ!」
「な、なんだ!?」
「苦しい、苦しい! し、死にたくな……ガハァッ!」
激しくもがいていた男が突然動きを止め、だらりと頭を垂れる。全身が真っ黒い炭のようになり、ツノやトゲと同じく砂のように跡形もなく散ってしまう。
「そん、な……」
これがガルディオの術のせいだというのか。パメラやジャーマも同じ呪いを受けているのだとしたら……
『ガルディオに逆らう以外でも、負けたからか、それとも体の限界を超えたからなのか……』
「何にせよ、命を命とも思っていない術だね……」
男の様子を見る限り、ただ力を授かったと思っていただけだろうか。最期の悲痛な叫びは、命を握られていた、捨て駒扱いだったなどと知らないように見えた。
フォンドが知る、力に溺れグリングランで暴れていたジャーマのように――旅立つ直前の光景を思い出し、フォンドの拳がぐっと握られる。
「……させねえ。ジャーマは兄弟同然に育った大事な家族なんだ。こんな終わり方させてたまるもんかよ……!」
「フォンド……」
「女王様……お前の姉ちゃんも、絶対に助けようぜ、エイミ!」
「はい……!」
エイミは強く頷くと、荒らされた玉座の間を見渡す。
決して気持ちの良い勝利ではないし、魔界の情報も得られなかった。
それでも、確かで大きな一歩がある。
(姉様、みんな……ついに、ドラゴニカの城を取り戻しました……!)
壊された城は、再建すればいい。そこに未来があるのなら、時間がかかっても、一歩一歩。
そしていつか、その再建の光景に姉も……新たな決意を胸に、エイミはギュッと表情を引き締めるのだった。
