34:取り戻すための戦い

「ヒヒヒ……すげぇ、どんどんチカラが湧いてくるぜ!」

 ドカンと音を立てて、さっきまでフォンドやエイミが立っていた床が抉れる。

「ニンゲンども、すぐには壊れるなよぉ? つまんねぇからよぉ!」

 あの拳をまともに喰らえば、いくらタフなふたりでも……後方でモーアンが援護のための魔法を準備していると、魔族はそちらに目を向け、拳を振り上げる。

「させるかよ!」
「なっ!?」

 先程自分で破壊した床を再び叩き、瓦礫を浮かせるとモーアンめがけて殴り飛ばす。
 人の頭ほどもある瓦礫が勢い良く飛んでくれば、その威力は咄嗟に杖で防いだモーアンにがくりと膝をつかせるほどだ。

「がはっ……!」
「「モーアンさんっ!」」

 魔法を使わず力技で遠距離攻撃を仕掛けてくるなどと、エイミたちには予想外のことだった。
 杖を支えにどうにか立つと、モーアンは苦痛に歪む顔を上げた。

「だ、大丈夫……みんなは、そいつの動きを止めて……っ」
『くっ……やったわね!』

 ミューが頭上から思いっきり冷気のブレスを吐きかけ、反撃する。

「つめてぇ! くそっ、ちょこまかしやがって!」
『きゃあ!』

 今度はミューが拳の風圧を受け、吹っ飛ばされる。
 その瞬間、フォンドの眼がきらりと煌めいた。

(今、ほんのちょっとだけど……もしかして)

 エイミも同様のことに気づいたようで、ふたりは顔を見合わせて頷き合う。

「今度はオレたちが相手だ!」
「ミュー、冷気のブレスをもう一度……いいえ、できるだけ隙を見てあちこちにお願い!」
『! わかったわ!』

 相棒の心を読み取った竜は再び宙を泳ぐと、前から後ろからさまざまな角度で冷気を吹きつける。

「う、う、さみぃ、さみぃっ……!」
「やっぱり、動きが鈍ってきた!」

 この魔族は寒さが苦手らしい。極寒の地だからこそドラゴニカの城内はしっかりとあたためられているのだが、中でもこの玉座の間は特に室温が温暖に保たれていたことをエイミとミューは思い出した。
 うっすらと白く霜を纏った巨躯はノロノロと腕を振り回すが、もはや誰にも当たらない。

「くそ、くそっ! ニンゲンごときがぁっ!」

 振りかぶった腕の重さに魔族がよろけた、その時。

「――光よ、聖なる矢となり貫け!」
「ぎゃあぁ!」

 モーアンが放つ魔力を鋭く圧縮した光線が肩を貫き、今度は敵の方が膝をつくことに。
 魔族がモーアンを振り返り、睨む。それに対して返したのは不敵な微笑み。

「リベンジ成功、だね」
「テメェ……!」
「終わりにします!」

 冷気で動きを鈍らせ、魔法で決定的なダメージも与えた。あとは……

『我が力も貸そう。ドラゴニカの王女よ、存分にやれ』
「はいっ!」

 地を蹴ったエイミの手にした槍が蒼い魔力を帯び、輝く。
 目にもとまらぬ素早い連続突きを胴体に叩き込み、下から斬り上げ、その勢いで相手を宙に浮かせる。

「ぐおおおおっ!?」

 連撃の間に、槍に集まる魔力が氷と化し、次第に形を変え、威力を増し、少女が扱うにはあまりにも巨大な氷の剣となる。

「これは……突然踏み躙られたドラゴニカの人々の怒り!」
「ぎゃあ! がっ……」

 トドメに槍が纏った氷の魔力を、力いっぱい投げつける。
 エイミの手から離れた剣が魔族を貫き、そのまま壁に釘付けにするとそこから氷が広がり四肢の動きを完全に封じてしまう。

「バ、カ、な……この、俺様が……」

 ビキビキと音をさせながらも、氷の拘束はビクともしない。
 唯一自由な首だけでもがくことしかできない魔族に、エイミはふうと溜息を吐いた。
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