34:取り戻すための戦い

 何もかもを失い突然外の世界に放り出され、小さな希望に縋りながら、成長を重ねながら辿り着いた悲願の地。
 途中、妨害してくる魔物を払い除けながら、ようやく見えてきた玉座の間の扉を、飛び込むように開け放つと……

「何やら下が騒がしいと思えば……人間ごときがたった数人だと?」

 玉座にどっかり寄りかかり、頬杖をついてこちらを見下ろす大男がそこにいた。
 頭のてっぺんにツノを生やしているがガルディオやシルヴァンとは明らかに違う種族とわかる、緑色の肌に飛び出たキバ。筋肉はあるが腹も出ていて、サイズの合わない玉座から今にもはみ出てしまいそうだ。

「……貴方がここのリーダーですね?」

 こみ上げる嫌悪感。胸が詰まり、呼吸が苦しくなりながら、エイミは槍を手にそう尋ねる。
 可憐な少女の鋭い瞳だけが、今すぐそこを退け、と語りながら。

「ヒャヒャヒャ! ただのガキかと思ったが殺気は悪くねえ……パメラはつまらねえ女だったが、代わりにテメェと遊んでやるよぉ」
「!」
「テメェらの無惨な死体を見せてやったら、あのお高くとまった女はどんな面をしやがるかなぁ?」

 途端にエイミの殺気が膨れ上がり、フォンドたちが目を見張る。

「エイミ!」
「わかっています。ようやく目の前まで来た機会……激情に呑まれて逃すようなことはしません!」

 旅を始めたばかりの頃は気持ちが逸るあまり無鉄砲に飛び出してしまうこともあったエイミだが、今は落ち着いて敵を見据えている。
 そんなエイミと、彼女の傍らにいるミューを見て、男は歪に目を細め、立ち上がった。

「はっ、テメェもしかしてこの城の竜騎士とかいうヤツの生き残りかぁ?」
『だったらどうなのよ?』
「面白ぇ。ただの人間よりは頑丈だって話だよなぁ……ガルディオ様に戴いたこのチカラ、試してみるかぁ!」

 男の目がぎらりと光ると、肌に不思議な紋様が浮かび上がり、筋肉が肥大化し、ひとまわりもふたまわりも大きくなった全身のあちこちに硬質なトゲが生える。
 トゲはともかく、紋様については女王パメラや、ジャーマのものとよく似ていた。
 力を引き出す代わりに術者に命を握られる、呪いの術と。

「あの紋様……魔族相手にもできるのかよ!?」
「いけない! その術は……!」
「知ってるなら話は早ぇ! このケタ違いのチカラでブッ潰してやるよ虫けらどもがぁ!」

 得意気に力を振るおうとする男は、ガルディオに心酔しきっているのか、或いはデメリットのことを知らないのか。

『……どっちにしろ、ヤバい相手だわ』

 ミューはすぐさま戦うための姿に変わり、男の頭上を旋回する。
 三人それぞれが武器を構えて距離をとり、ドラゴニカを取り戻すための決戦が始まるのだった。
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