33:魔族という生き物

 よくよく確認してみたところ、正面は下っ端魔族らしき門番ふたりだけ。
 圧倒的な力で人間を負かしたという事実さえあればいいのか、一度手に入れたモノへの執着はさほどでもないように見える。

「こんなところまで再びやって来る人間がいるだなんて、夢にも思わないってことかもな」
「奪った竜に空を見張らせているから、っていうのもあるんじゃないかしら? あたしたちは精霊の力を借りたからこんな懐まで辿り着けたんだもの。実際、普通なら無理よ」

 岩陰に隠れてはいるものの、見張りの表情や口元の動きまで確認できる程の距離までの接近が気づかれないのは、精霊が引き続き姿と音を隠してくれているからだ。
 ふと、見張りたちの口がぱくぱくと動いているのが見え、エイミの目が鋭く細められる。

「……ラクトさん。彼らの会話をここまで届けられませんか?」

 彼女がそう言うと、後ろに控えていた風精霊がすっと進み出た。

『そうだな、何か情報が得られるかもしれん。風の流れで声をここまで運ぼう』
「お願いします」

 ラクトが両手を前にかざし、次いで手前に引き寄せる動作をすると、ふわりと風が吹く。

《……あー……静かだ。今日も異常なーし》

 運ばれてきたのは、だらけた青年の声だ。全員が息を詰め、そっと聞き耳をたてる。

《ったく、人使いが荒いぜ。いきなりこんな所に連れて来られたかと思ったら自分はさっさと帰って城の修復と掃除と見張りは俺達にやらせるなんてよ》

 まだ青さの残る声音は、緑の鱗の中肉中背の青年。その嘆きを聞いて、もうひとり赤い鱗の小太りの青年が頭の後ろに手をやった。

《まぁ、おれら鱗生人は魔族の中でも下っ端も下っ端の扱いだ。ガルディオ様からすれば、同じ魔族とも思ってねえだろうなぁ》
《生まれた瞬間からそんなんじゃ、やってられねーよ。あー魔界へ帰りたい》
《よせよ、誰かに聞かれたらおれたちの首なんか簡単に飛んじまうんだぞ》

 思わず顔を見合わせるような、世知辛いやりとり。
 シルヴァンから聞いていたように、魔族の間でもいろいろあるようだ。

「なんか……やりにくいね……」
「話を聞く限り、城を襲った張本人ではなさそうだしな……」

 戦意も士気も見るからに低いだろう門番たちだが、見た目だけはちゃんとやっているように思わせるためか、その手には剣や槍を携えている。
 彼らをどうにかしないことには、城への侵入は難しいだろうが……

「わたしに考えがあります……ラクトさん、ルベインさん。力を貸してください」
『承知した』
『オ、オレさま?』
「はい。あのですね……」

 エイミがこしょこしょと耳打ちをすると、怪訝そうだった火精霊の目が輝きだす。

『なぁるほど……へへ、この偉大な精霊ルベインさまに任せとけ!』

 ルベインがくるりとその場で回ると、小さな火があちこちに溢れる。
 その顔は偉大な精霊というより、面白い遊びを見つけた悪童そのものだったという。
2/4ページ
スキ