32:ドラゴニカは目の前に

 グリングラン沖の小島にある神殿の地下から聖獣シュヴィナーレの力を借り、海中を通ってドラゴニカ近くにある“水鏡の泉”まで来ることができた一行。
 そこで出会った水の精霊アクリアは、泉の水面に何やら映し始めたが……

『わたしは世界中の水場からそこの様子を知ることができる。魔族や魔物も水は必要不可欠だからな。奪われたドラゴニカもどこかしらに水場はあるだろう』
「すごぉい! いかにも精霊って感じだ!」

 サニーが素直な感想を述べた途端、彼女の背後で複数の大袈裟な咳払いが聴こえてきた。

『オウオウオウ! 聞き捨てならねえぜ!』
『精霊っぽくねえのはそこの火の玉爺だけじゃねえか!』
『そうだ。我は荘厳で静謐なる夜の使徒、闇の精霊……』
『ウォッホン、オホン! そりゃどういう意味かのぅ?』

 ぎゃあぎゃあ騒いでいるのは順番に、火、土、闇、光の精霊。風精霊ラクトは一応姿を見せてはいるものの、やや距離をおいて彼らの主張をそっと見守っている。

「君は加わらないんだね、ラクト」
『ああいう元気はないものでな。それに主張をすればするほど、却って“らしく”なくなるだろう?』

 ふう、と溜息を吐く彼は他の精霊たちのノリに慣れているのだろうか。
 一連の流れを見た水精霊もまた、額を押さえて苦笑いをしていた。

『相変わらずだな……』
「賑やかで楽しいですよ」
『うん? うん……そなたが楽しいなら良いが』

 アクリアはしばし考え込んだ後、エイミの顔を覗き込む。

『そういえば、レレニティアもそんなことを言っていたな。やはり似ている』

 優しく、慈しむように。どこか懐かしげに。海の守り神はそっと微笑んだ。
 と、泉の水面にいくつかの光景が映し出される。城や山中、村らしき場所など。ドラゴニカの王女にはそれがどこかすぐにわかった。

「ドラゴニカの城……!」
『こっちは城がある山に、ふもとの村ね。どこも見慣れない魔物がうろついてるわ……』

 故郷を魔物に蹂躙されている光景は、エイミとミューにはあまりにも酷なものだろう。それでも彼女たちは、震えそうな声を抑えながら、じっと見つめる。

「村に居座ってる奴らから倒して、山を登って、城にいるリーダーを倒す。そして結界を張り直せばいけるんじゃないか? これだけ精霊が集まれば、強力な結界が張れそうだ」
「城の女神像は祈りの間と玉座の間にあります。両方に力を注げば、きっと……」

 どうにかして城を取り戻しても、今は不在だというガルディオが再び戻ってきてしまってはまた奪われてしまう。
 前回は遊ばれて手加減されていたが、今度は本気で叩き潰され、多くの死者が出るだろう。
 それを防ぐためには、今度こそ破られない強力な結界が必要になる。

「突入するのはいいけど、この辺りに他に無事な町や村はないのかしら? きちんと準備を整えたいわ」
「ドラゴニカからは離れていますがブランヴワルという町がこの近くにあります。氷炎の護り石だけでは、城を頂くノール・エペの山を登るのは厳しいでしょう」
『この泉とブランヴワルは我が力で魔族の目を逃れている。奴らに気取られることなく準備ができよう』

 アクリアが言うには、咄嗟のことでそれだけ守るのが精一杯だったと。
 エイミたちは彼女との契約を済ませると、まずは東にあるブランヴワルの町を目指すことにした。
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