2:騒乱と出会いと

『いち、にい、さん、しー……あわせて五人か。手分けして戦えばなんとか被害は防げそうね』
「一気にいきます!」

 エルミナは槍を構えると、敵を察知して飛び掛かってきた魔物二体を一度に薙ぎ払う。
 見た目こそ細身の少女だが半竜人の力は並のものではない。軽々と槍を振り回す姿に、一同は驚き釘付けになった。

「すっご……」
「なるほど、戦力に数えて良さそうだな」

 黒尽くめの青年はそれだけ言うと魔物に向き直り、一気に距離を詰めて斬り伏せる。
 口調はひねているものの剣筋は実直そのもので、きっちりと型に忠実に技を磨き上げた剣士のそれだった。

「よーし、アタシもっ!」

 それならばと隣にいた少女も曲芸よろしく高く跳ぶとくるくると回りながら魔物の群れに飛び込み、両手のダガーを踊らせて周囲を蹴散らす。
 でたらめともいえる不規則な素早い動きは、魔物たちを翻弄した。

『敵の数が減ってきたわ!』
「奥にいる頭を叩きましょう!」

 戦い慣れた彼らやどういう仕組みなのか呪文も唱えずに光弾を撃ち続けている魔法学者もいるお陰で、エルミナたちの道は開けていた。
 無惨に破壊された船の残骸が浮かぶ船着き場に陣取る巨大な魔物を倒せば、敵の勢いを削げるだろう。
 エルミナの意図に気づいた巨大イカが吸盤のついた足を数本のばして攻撃してくるが、

「任せろっ!」

 素早く間に潜り込んだ黒鳶色の髪が揺れ、鍛え抜かれた体が鋭い拳を一発、続いて回し蹴りを繰り出す。
 鈍い音と衝撃と共に、長くうねる足を弾き飛ばした。

『うわっ、馬鹿力……ああいうのに打撃って効かないんじゃなかったの……?』

 水棲型の魔物やスライムなどの軟体には、ぬめぬめと滑ったり衝撃が吸収されたりして打撃攻撃が効きにくい、最悪無効化されてしまうというのが一般的な話だ。
 ミューの意見はもっともだが、エルミナは「いいえ」と小さく首を振った。

「力じゃないわ」
「おっ?」
「それより今は……手を貸してください!」
「ああ、わかってるよ!」

 短いやりとりでエルミナと通じ合った青年は、リーチこそ短いが小回りがきく利点を活かし、彼女の道を作るべく身軽に動いて敵を引きつける。
 大振りな槍ではあらゆる角度から柔軟に飛んでくる手数の多い攻撃は捌ききれないかもしれないが、そこを補うのが青年の拳。
 逆にエルミナが目指すべきは、一点集中の一撃必殺だ。

(今度こそ……今度こそ、守る!)

 力が足りず、間に合わず。城は、愛する国は奪われた。
 この港町リプルスーズを、ドラゴニカのようにはさせない。
 エルミナの決意を乗せた足は青年の助けもあって猛攻を潜り抜け、巨大魔物の目の前に迫るとぐっと地を蹴り、遥か高く跳び上がる。

「これで、終わりですッ!」

 落下の勢いを上乗せした槍を、一直線に魔物の脳天にドカリと突き立てた。
 エルミナが槍を引き抜くと魔物は大きく仰け反り、もがきながら海へと沈み、やがて巨体は形を失い黒いモヤを噴き出しながら霧散していく。

「やった!」

 そう声をあげたのは曲芸の少女。
 頭を潰され、統率を失った残りの魔物は散り散りに逃げたり破れかぶれに攻撃しようとして倒されたりで、港町と海がもとの静けさを取り戻すのにそう時間はかからなかった。
 白み始めた空を見やり、魔法学者の女性があくびをひとつ。

「はぁー、これでやっと眠れるわ」
「アタシももうねむいよー」
「町の被害も大丈夫そうだな」

 一時とはいえ戦いを共にした仲間たちは、ばらばらと宿屋へ戻っていく。
 町中は多少の被害と負傷者が出たようだが、ここからは彼らの領分ではない。

「わたし達も帰りましょう、ミュー。ルクシアルへ行くのに少しでも眠らないと」
『そうね。なんだかどっと疲れちゃったわ』

 エルミナは槍を持ち替え、ミューと共に宿への帰路についた。

「……なんか、気になる子だな……」

 背後からの視線とそんな呟きには、気付かないまま。
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