30:神殿の地下洞窟

「クッ……小娘が調子に乗って……忌々しい女神の加護なんぞに守られおって」
「さっきの光はそういうことね。こんなところに何をしに来たのかしら?」
「誰が話すか、と言いたいところだが……そうだな、目的が変わった」

 禁呪の魔法士がニヤリと口の端を上げれば、ずるりずるりとなにかを引き摺るような音が近づいてくる。

「な、なに!? なんかヤな予感がするよ!」
『同感ね。これは……』

 音の正体を探る前に、岩壁がドカンと破壊される。
 エイミたちが来た上からの階段とは別に、新しく空いた大穴。そこから現れたのは、見上げるほどの巨大なイカの魔物だ。

「こいつはここに来る途中で“手懐けた”ものでね。大暴れすればこんな神殿も破壊してくれるだろう」

 全身から染み出す黒い“穢れ”により戦闘能力と凶暴性を引き上げられた魔物は、エイミたちをすぐさま獲物と見做す。

「伝説の聖獣とやらを手に入れてやろうかと思ったが、邪魔者共々始末する方が良さそうだ」
「なんだって!?」
「ククク、良くて生き埋めだろうな……どのみちこの寂れた孤島がお前達の墓場となる」

 禁呪の魔法士が長い指を己の足元に向けると、ぐるりと囲むように紫色に輝く魔法陣が描かれる。
 このまま逃げるつもりか――モーアンが血相を変えて呼び止めた。

「ま、待て! お前、ノクスという神官を知らないか!?」

 そこにはいつもの穏やかな年長者の見る影もない。
 必死の形相は仲間たちも息を呑むほどで……それなのに、男は意に介さずマイペースに顎に手を置き、なんでもないような口調で話す。

「ノクス……神官……? ああ、奴はそんな名前だったか」
「!」
「良い助手だよ、奴は。よく役に立ってくれる……まあ、貴様が今後会うことはないだろうがな」
「なっ……!」

 それを最後に、禁呪の魔法士の姿は光の中に掻き消えてしまう。
 壁や天井などの障害物も関係なく、一瞬で遠くに移動する――そんなものは、現代にはない魔法だ。

「く……!」
「アルバ……」
「今は目の前の敵に集中しろ! 仲良く生き埋めなんてごめんだからな!」

 モーアンとプリエールが突然のことに動揺していようが、魔物はお構い無しに触手を振り回し襲い来る。
 シグルスの声が響く中、ふたりが俯いていたのは、ほんの一瞬のことだった。

「聖なる光よ!」
「焔の猛追!」

 集束する光と炸裂する火球が同時に直撃し、より一層派手な音を立てて爆発を起こす。

「ごめんね。もう大丈夫だから」
「さっさとブッ飛ばして、扉の向こうに行くわよ!」

 一度は目の前にぶら下がった手がかりを掴み取るためには、まずは行く手を阻む魔物を倒さなくては。
 年長者たちはきっちり切り替えると、魔物を見据えて距離をとる。

「モーアンさん、プリエールさん……よろしくお願いします!」

 エイミたちはふたりを守るように前に出て、それぞれの武器を手に身構えるのだった。
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