29:満月の日まで
残りの精霊を集めれば、パメラやジャーマをガルディオの手から解放できるかもしれない。
確証はないが、現時点で一番の可能性が生まれたのを見届けると、シルヴァンは静かに立ち上がった。
そんな彼に、ブリーゼが鋭い視線を送る。
「どこへ行く?」
「私は私で、ガルディオを止めるため行動するつもりだ。魔族であることを知られている以上、ここに留まれば不安を感じさせてしまうだろうしな」
大半が避難していたとはいえ、シルヴァンとパメラのやりとりは誰かしら……少なくともあの場にいた竜騎士たちは目撃している。
彼がいわゆる世間一般の魔族のイメージとは違う人物だといっても、全ての人間がそう簡単に受け入れられるわけではないのも事実だろう。
「それこそ一緒にドラゴニカへ行けばいいんじゃないかしら?」
プリエールがそう尋ねると「いや」とシルヴァンは首を振った。
「ガルディオ自身はもうドラゴニカにはいないだろう。手に入れた城を部下に任せて、魔界に帰って傷を癒やしているはずだ。だからこそパメラが魔物を率いていた」
つまり、城を取り戻すなら今だ。
人間界侵略の足掛かりにされた城の奪還が、今度は反撃の第一歩となる――エイミの胸が、どくんと高鳴る。
「私は人間界を回って調べたいことがある。またどこかで会うこともあるかもな」
「ま、待てよ!」
ガタガタッと慌てて席を立ち、フォンドがシルヴァンを呼び止める。
「ラファーガって名前の銀髪のムキムキ親父に会うことがあったら「すぐに追いつくから早まったマネすんなよ」って伝えてくれ!」
「ムキムキ……? ああ。確かフォンドといったな。わかった」
小さく頷くと、シルヴァンは今度こそ会議室をあとにする。しん、と一度静寂の間が訪れた。
「……おい」
最初にそれを破ったのは、シグルスだった。赤い瞳が、ちらりとエイミを見やる。
「どったの、シグルス兄ちゃん?」
「お前たちがお人好しの集団なのはある程度わかっていたが……あれを信用して野放しにしていいのか?」
ひとしきり話を終え、やることも見つかったからか、彼女は落ち着いた様子で微笑んだ。
「魔族だから、で全て問答無用で攻撃していたら、ガルディオと同じになってしまいます」
「!」
シグルスの胸がどきりと鳴る。そういった扱いを長年受けていたのは、ハーフエルフである自分の方だったのに、と。
「あっ、でも一応、話す内容は選びましたよ。これから向かう先のこととか……そうでしょう、ブリーゼ?」
エイミにそう尋ねられ、ああ、と頷くブリーゼ。
これから彼女たちが向かうのは、奪われた故郷ドラゴニカ。陸路は閉ざされ、定期船が出ていない今、そこへ向かう手段は……
「グリングランから真っ直ぐ西へ向かった海岸から小さな島が見える」
「ああ、なんか古い神殿があるって話だよな? 確かメイル神殿っていう」
地元民であるフォンドは心当たりがあるようで、ブリーゼの言葉にすぐに反応した。
「そうだ。その神殿では海の聖獣“シュヴィナーレ”を祀っている」
「シュヴィナーレ……」
神秘的で大仰な響きの名前が、それぞれの想像力をかき立てる。
聖獣というからにはどんな神々しい生き物なのだろうか――思いつく限りの海の生物を脳内に浮かべる。
「シュヴィナーレ……!」
そんな中でただひとり、エイミだけはその名を他とは異なる響きで呼ぶ。
口許に手を置き、神妙な面持ちで俯く彼女は、しばし思考の海を漂っていた。
確証はないが、現時点で一番の可能性が生まれたのを見届けると、シルヴァンは静かに立ち上がった。
そんな彼に、ブリーゼが鋭い視線を送る。
「どこへ行く?」
「私は私で、ガルディオを止めるため行動するつもりだ。魔族であることを知られている以上、ここに留まれば不安を感じさせてしまうだろうしな」
大半が避難していたとはいえ、シルヴァンとパメラのやりとりは誰かしら……少なくともあの場にいた竜騎士たちは目撃している。
彼がいわゆる世間一般の魔族のイメージとは違う人物だといっても、全ての人間がそう簡単に受け入れられるわけではないのも事実だろう。
「それこそ一緒にドラゴニカへ行けばいいんじゃないかしら?」
プリエールがそう尋ねると「いや」とシルヴァンは首を振った。
「ガルディオ自身はもうドラゴニカにはいないだろう。手に入れた城を部下に任せて、魔界に帰って傷を癒やしているはずだ。だからこそパメラが魔物を率いていた」
つまり、城を取り戻すなら今だ。
人間界侵略の足掛かりにされた城の奪還が、今度は反撃の第一歩となる――エイミの胸が、どくんと高鳴る。
「私は人間界を回って調べたいことがある。またどこかで会うこともあるかもな」
「ま、待てよ!」
ガタガタッと慌てて席を立ち、フォンドがシルヴァンを呼び止める。
「ラファーガって名前の銀髪のムキムキ親父に会うことがあったら「すぐに追いつくから早まったマネすんなよ」って伝えてくれ!」
「ムキムキ……? ああ。確かフォンドといったな。わかった」
小さく頷くと、シルヴァンは今度こそ会議室をあとにする。しん、と一度静寂の間が訪れた。
「……おい」
最初にそれを破ったのは、シグルスだった。赤い瞳が、ちらりとエイミを見やる。
「どったの、シグルス兄ちゃん?」
「お前たちがお人好しの集団なのはある程度わかっていたが……あれを信用して野放しにしていいのか?」
ひとしきり話を終え、やることも見つかったからか、彼女は落ち着いた様子で微笑んだ。
「魔族だから、で全て問答無用で攻撃していたら、ガルディオと同じになってしまいます」
「!」
シグルスの胸がどきりと鳴る。そういった扱いを長年受けていたのは、ハーフエルフである自分の方だったのに、と。
「あっ、でも一応、話す内容は選びましたよ。これから向かう先のこととか……そうでしょう、ブリーゼ?」
エイミにそう尋ねられ、ああ、と頷くブリーゼ。
これから彼女たちが向かうのは、奪われた故郷ドラゴニカ。陸路は閉ざされ、定期船が出ていない今、そこへ向かう手段は……
「グリングランから真っ直ぐ西へ向かった海岸から小さな島が見える」
「ああ、なんか古い神殿があるって話だよな? 確かメイル神殿っていう」
地元民であるフォンドは心当たりがあるようで、ブリーゼの言葉にすぐに反応した。
「そうだ。その神殿では海の聖獣“シュヴィナーレ”を祀っている」
「シュヴィナーレ……」
神秘的で大仰な響きの名前が、それぞれの想像力をかき立てる。
聖獣というからにはどんな神々しい生き物なのだろうか――思いつく限りの海の生物を脳内に浮かべる。
「シュヴィナーレ……!」
そんな中でただひとり、エイミだけはその名を他とは異なる響きで呼ぶ。
口許に手を置き、神妙な面持ちで俯く彼女は、しばし思考の海を漂っていた。
