29:満月の日まで
変わり果てた姿で魔物を引き連れ、突如グリングランを襲ったドラゴニカの女王パメラ。
彼女が妹であるエイミをも攻撃しようとしたその時、割って入ったのは“ツノ無しの弟君”……魔族で、しかもドラゴニカを奪った仇敵ガルディオの弟だという青年シルヴァンだった。
兄であるガルディオに歯向かう行為を見せたのは、魔界を救うため――町の手伝いに出ていた仲間たちにそこまで説明すると、竜騎士の詰所で一同を交えて話が続けられることになった。
「ねぇねぇ、魔族ってみんなツノがあるの?」
「魔族にもいろいろな姿形の者がいて、その中で強大な力を持ち高貴な存在とされているのが、人間に近い姿でツノを生やした種族……といったところだ」
私にはもうないが、とシルヴァンは青みを帯びた黒髪の、ツノが生えていたと思しき箇所に触れた。
パメラとのやりとりから想像するに、どうやらツノを生やした魔族の間では、それはとても大事なものらしい。
「なるほど、魔族っていうのは魔界に住む者の総称ってことかな?」
「そう思ってくれればわかりやすいだろう。私やガルディオはツノを生やした“魔王族”。他にも獣人や有翼人、鱗生人などがいる」
全面的に敵対していると思っていた魔族から現れた貴重な情報源。物腰柔らかで人間と対等に会話するシルヴァンに、魔族に対するイメージが塗り替えられていく。
この場の空気から張り詰めたものが僅かに和らいだのを、一歩引いて壁にもたれかかって眺めていたブリーゼは見逃さなかった。
「……シルヴァン。ひとつ聞いておきたいことがある」
「何だろうか?」
「百歩譲ってお前の目的が魔界を救うためだったとして……我々に接触したのは何故だ? わざわざパメラに……魔界側に察知される危険まで冒して」
魔族に友好的な者は、人間界にはいないと言ってもいいだろう。
ぴり、と再び緊張が戻る。シルヴァンはしばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「……ここに現れたこと自体は、偶々だ。人間界に行こうとしたらここに出た。そうしたらパメラがこの町を襲っていたから……放って置けなかったんだ」
「放って置けなかった?」
「彼女は国を治める立場の人間で、ガルディオに無理矢理従わされていて……本来は気高く強く、民を想う良き王なのだろう。そんなひとに、人間界の町を襲わせるなんて……」
悲痛な面持ちで俯くシルヴァン。その心優しい性格が魔族……というよりガルディオの気質には合わず、臆病者だと揶揄されるのだろう。
「それに、君がパメラの妹だと聞いて、居ても立っても居られなかった」
「シルヴァンさん……」
きょうだいが傷つけ合うさまは見たくない――兄を倒そうとしながら、その胸中は複雑なのだろう。
これが芝居なら大した役者だが、などという言葉は、シグルスの内心にそっと仕舞われた。
彼女が妹であるエイミをも攻撃しようとしたその時、割って入ったのは“ツノ無しの弟君”……魔族で、しかもドラゴニカを奪った仇敵ガルディオの弟だという青年シルヴァンだった。
兄であるガルディオに歯向かう行為を見せたのは、魔界を救うため――町の手伝いに出ていた仲間たちにそこまで説明すると、竜騎士の詰所で一同を交えて話が続けられることになった。
「ねぇねぇ、魔族ってみんなツノがあるの?」
「魔族にもいろいろな姿形の者がいて、その中で強大な力を持ち高貴な存在とされているのが、人間に近い姿でツノを生やした種族……といったところだ」
私にはもうないが、とシルヴァンは青みを帯びた黒髪の、ツノが生えていたと思しき箇所に触れた。
パメラとのやりとりから想像するに、どうやらツノを生やした魔族の間では、それはとても大事なものらしい。
「なるほど、魔族っていうのは魔界に住む者の総称ってことかな?」
「そう思ってくれればわかりやすいだろう。私やガルディオはツノを生やした“魔王族”。他にも獣人や有翼人、鱗生人などがいる」
全面的に敵対していると思っていた魔族から現れた貴重な情報源。物腰柔らかで人間と対等に会話するシルヴァンに、魔族に対するイメージが塗り替えられていく。
この場の空気から張り詰めたものが僅かに和らいだのを、一歩引いて壁にもたれかかって眺めていたブリーゼは見逃さなかった。
「……シルヴァン。ひとつ聞いておきたいことがある」
「何だろうか?」
「百歩譲ってお前の目的が魔界を救うためだったとして……我々に接触したのは何故だ? わざわざパメラに……魔界側に察知される危険まで冒して」
魔族に友好的な者は、人間界にはいないと言ってもいいだろう。
ぴり、と再び緊張が戻る。シルヴァンはしばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「……ここに現れたこと自体は、偶々だ。人間界に行こうとしたらここに出た。そうしたらパメラがこの町を襲っていたから……放って置けなかったんだ」
「放って置けなかった?」
「彼女は国を治める立場の人間で、ガルディオに無理矢理従わされていて……本来は気高く強く、民を想う良き王なのだろう。そんなひとに、人間界の町を襲わせるなんて……」
悲痛な面持ちで俯くシルヴァン。その心優しい性格が魔族……というよりガルディオの気質には合わず、臆病者だと揶揄されるのだろう。
「それに、君がパメラの妹だと聞いて、居ても立っても居られなかった」
「シルヴァンさん……」
きょうだいが傷つけ合うさまは見たくない――兄を倒そうとしながら、その胸中は複雑なのだろう。
これが芝居なら大した役者だが、などという言葉は、シグルスの内心にそっと仕舞われた。
