27:グリングランへの帰路
風の精霊と契約した帰り道は嘘みたいにあっさりとしていて、道中の魔物が襲ってくる以外の妨害は何もなかった。
「それにしても奇遇だよねぇ。僕以外はみんなリプルスーズで一度会ってたなんて……なんだか僕だけ仲間外れみたいでちょっぴり寂しいや」
少し休憩しようと女神像の周辺にあった手頃な岩に腰掛けると、モーアンはしみじみと呟いた。
『だってアンタはルクシアルの神官でしょ? 私たちはそのルクシアルを目指してたんだもの。スタート地点が違うだけよ』
「そうそう、ミューちゃんの言う通り。全員に千年前の脅威との因縁って立派な共通点があるじゃない」
「あはは、ありがとう。ちゃんとわかってるよ」
仲間外れなんか気にするたちでもないし、何よりここまで一緒に旅をしてきていまさらだろう。
冗談のひとつでも飛ばして、新しく仲間に加わったばかりのプリエールが早く馴染めれば……そう思ったモーアンだったが、ミューと「ねー」なんて頷き合う彼女は既に女性陣とはだいぶ打ち解けているようだ。
「ミューも慣れてきたよなぁ」
「そうですね。最初は外の人に警戒してばかりだったのに」
「ははは……」
リプルスーズに着いたばかりの時の出来事を思い出し、フォンドがへらりと笑った。
一番“慣れていない”頃のミューにあれやこれやと言われたが、今となってはもう懐かしい話だ。
「多少はそういうのも必要だけど、ツンツンしてばっかじゃ疲れちまうもんな」
「ええ」
「エイミも。よく笑うようになったよ」
フォンドに笑いかけられ、エイミは一度きょとんと目を丸くする。
けれども、自分でもよくわかっていた。旅を始めたばかりの心細く張り詰めた感じと今では、心持ちが全然違うと。
「フォンドやモーアンさん、皆さんのお陰ですよ」
「へへ、ならよかった」
ずっとミューとふたりきりで旅をしていたら、恐らくこうはならなかった。それに、まずここまで辿り着けたかどうかもわからないだろう。
仲間と出逢えたからここまでの苦難を乗り越えられて、今の自分がある。多かれ少なかれ、エイミたち全員が自覚していることだ。
「次は水の精霊さんですね。ブリーゼは準備をしておくと言っていましたが……」
「ヒミツって何だろな? 気になるぜー」
北大陸の北部にどうにか入り、水精霊との契約を済ませれば、いよいよドラゴニカが見えてくる。
一度は圧倒的な力の差を思い知らされた苦い記憶があるというのに、エイミは目先に待ち受けるものに少なからずわくわくしている自分に気づいた。
「水鏡の泉はドラゴニカと同じく険しい山を隔てた大陸の北部。陸路も船も今は使えないのに、どうやって行くんでしょうね?」
「泉が海と繋がってるって言われたら、潜っていくぐらいしか思いつかねえよなぁ」
「「うーん……」」
考え込んで唸る声がハモり、互いに顔を見合わせると、同時に吹き出した。
「きっとなんとかしてくれるぜ。ブリーゼさんすっげえからな!」
「ふふ、そうですね」
そんな光景を、新しく仲間に加わったふたりがぽかんと見つめる。
『……なんだか爽やかな若人たちだな』
『あのふたりはいつもあんなカンジよ』
「ぴゅあっぴゅあで微笑ましいわね……」
年頃の男女がくっつきそうなくらいの隣に座り、楽しく談笑している。
距離感は近いが、色気は全くない。何なら時には装備や鍛錬、先程の戦闘ではどうだったかなどの話で盛り上がっていたりする。
じきに慣れるわ、と諦めの溜息を吐き出すミューの目は、どこか遠くへと向けられていた。
「それにしても奇遇だよねぇ。僕以外はみんなリプルスーズで一度会ってたなんて……なんだか僕だけ仲間外れみたいでちょっぴり寂しいや」
少し休憩しようと女神像の周辺にあった手頃な岩に腰掛けると、モーアンはしみじみと呟いた。
『だってアンタはルクシアルの神官でしょ? 私たちはそのルクシアルを目指してたんだもの。スタート地点が違うだけよ』
「そうそう、ミューちゃんの言う通り。全員に千年前の脅威との因縁って立派な共通点があるじゃない」
「あはは、ありがとう。ちゃんとわかってるよ」
仲間外れなんか気にするたちでもないし、何よりここまで一緒に旅をしてきていまさらだろう。
冗談のひとつでも飛ばして、新しく仲間に加わったばかりのプリエールが早く馴染めれば……そう思ったモーアンだったが、ミューと「ねー」なんて頷き合う彼女は既に女性陣とはだいぶ打ち解けているようだ。
「ミューも慣れてきたよなぁ」
「そうですね。最初は外の人に警戒してばかりだったのに」
「ははは……」
リプルスーズに着いたばかりの時の出来事を思い出し、フォンドがへらりと笑った。
一番“慣れていない”頃のミューにあれやこれやと言われたが、今となってはもう懐かしい話だ。
「多少はそういうのも必要だけど、ツンツンしてばっかじゃ疲れちまうもんな」
「ええ」
「エイミも。よく笑うようになったよ」
フォンドに笑いかけられ、エイミは一度きょとんと目を丸くする。
けれども、自分でもよくわかっていた。旅を始めたばかりの心細く張り詰めた感じと今では、心持ちが全然違うと。
「フォンドやモーアンさん、皆さんのお陰ですよ」
「へへ、ならよかった」
ずっとミューとふたりきりで旅をしていたら、恐らくこうはならなかった。それに、まずここまで辿り着けたかどうかもわからないだろう。
仲間と出逢えたからここまでの苦難を乗り越えられて、今の自分がある。多かれ少なかれ、エイミたち全員が自覚していることだ。
「次は水の精霊さんですね。ブリーゼは準備をしておくと言っていましたが……」
「ヒミツって何だろな? 気になるぜー」
北大陸の北部にどうにか入り、水精霊との契約を済ませれば、いよいよドラゴニカが見えてくる。
一度は圧倒的な力の差を思い知らされた苦い記憶があるというのに、エイミは目先に待ち受けるものに少なからずわくわくしている自分に気づいた。
「水鏡の泉はドラゴニカと同じく険しい山を隔てた大陸の北部。陸路も船も今は使えないのに、どうやって行くんでしょうね?」
「泉が海と繋がってるって言われたら、潜っていくぐらいしか思いつかねえよなぁ」
「「うーん……」」
考え込んで唸る声がハモり、互いに顔を見合わせると、同時に吹き出した。
「きっとなんとかしてくれるぜ。ブリーゼさんすっげえからな!」
「ふふ、そうですね」
そんな光景を、新しく仲間に加わったふたりがぽかんと見つめる。
『……なんだか爽やかな若人たちだな』
『あのふたりはいつもあんなカンジよ』
「ぴゅあっぴゅあで微笑ましいわね……」
年頃の男女がくっつきそうなくらいの隣に座り、楽しく談笑している。
距離感は近いが、色気は全くない。何なら時には装備や鍛錬、先程の戦闘ではどうだったかなどの話で盛り上がっていたりする。
じきに慣れるわ、と諦めの溜息を吐き出すミューの目は、どこか遠くへと向けられていた。