27:グリングランへの帰路
「そう……禁呪の魔法士が出てきた時点で嫌な予感はしていたけど……ちょっと情報量が多いわね」
それでも、想像をこえたスケールの話には違いなく、ひととおり聞き終えたプリエールは額を押さえた。
五人の旅立ちのきっかけに、これまでの旅路。精霊、穢れ、悪魔の術に囚われた町、魔界の扉……振り返ってみても、今までならありえないような出来事が多すぎるのだ。
『世界の危機……風で感じ取ってはいたが……』
『最悪、わしらが存在できなくなる可能性もあるぞ。現に精霊に直接干渉もしとるからのう』
「そんな……精霊を失えば、世界は恵みを失い、荒れ果ててみるみる衰退してしまうわよ」
プリエールが言うには、この世界は精霊が張った網の上に支えられているようなものらしい。どれか一体でも精霊が欠ければバランスを崩し、徐々に形を保てなくなっていく。
「……プリエール、僕も“穢れ”……黒いモヤでおかしくなった親友を探している。みんなそれぞれ目的は異なるけど、旅のどこで手がかりに繋がるかわからない。一緒に行動するメリットもあるんだ」
「結局どれも放っておけないことばっかりだから、みんな一緒に対処してった方が確実だと思うよ」
「うーん……」
モーアンとサニーの言葉に考え込むプリエール。そこにシグルスが歩み寄り、
「……毎回ああやって隠れながら進むわけにはいかないだろう?」
と、至極もっともな指摘をした。
実際“幻惑の衣”は魔物から身を隠すことはできるが、じっとしていないと布に映した景色も動いてしまうため、それだけで進むのは困難だろう。
「それもそうね……いいわ。禁呪の魔法士もあたしひとりじゃ倒せないだろうし」
『決まりじゃの。エイミ、プリエールの手をギュッと握ってくれんか?』
「? はい、こうですか?」
ふたりの手が繋がれた瞬間、共鳴するように互いの胸から強い光が発せられた。
やや大粒のエイミの輝きから、まだ微かなプリエールの輝きへ、光の粒子がすうっと移っていく。
「これは……」
「何かしら……あったかいわ。なんだかホッとするような、力が湧いてくるような……」
大粒の光はそのまま、小さな頼りない光は、やがてしっかりと形を得る。
「エイミちゃんたちの中にある女神様が託した力……“聖なる種子”と同じなの?」
『おぬしの中にあったのは、そのまた小さな欠片じゃがな。今ので芽吹くきっかけを得た。そして精霊との契約も繋がったから、そのうち成長が追いつくじゃろう』
光精霊が言うには、これでプリエールも今までエイミたちが出会った精霊たちと契約したことになるそうだ。
不思議な儀式のような一連の流れを、サニーとシグルスがぽかんと見つめていた。
「アタシそんなのやらなかったよ?」
「俺もだな」
『今のやり方が手っ取り早いが、おぬしたちの欠片はあの極限状態で既にほとんど芽吹いておったからのう』
手っ取り早いやり方があるなら教えてほしかったよー、と口を尖らせる少女が場の空気を和ませる。
ひとしきり見守っていた風精霊が、くるりとエイミたちに向き直った。
『……さて。改めて、我が名は風の精霊ラクトだ。これから宜しく頼む』
「あたしも、よろしくね。派手にブッ飛ばす魔法ならまかせて!」
「出会って早々に物騒だなぁ……」
ははは、と笑うモーアンや仲間たちを取り巻く風がふわりと優しくなる。
どうやら風詠の谷は、エイミたちを穏やかに受け入れたようだ。
それでも、想像をこえたスケールの話には違いなく、ひととおり聞き終えたプリエールは額を押さえた。
五人の旅立ちのきっかけに、これまでの旅路。精霊、穢れ、悪魔の術に囚われた町、魔界の扉……振り返ってみても、今までならありえないような出来事が多すぎるのだ。
『世界の危機……風で感じ取ってはいたが……』
『最悪、わしらが存在できなくなる可能性もあるぞ。現に精霊に直接干渉もしとるからのう』
「そんな……精霊を失えば、世界は恵みを失い、荒れ果ててみるみる衰退してしまうわよ」
プリエールが言うには、この世界は精霊が張った網の上に支えられているようなものらしい。どれか一体でも精霊が欠ければバランスを崩し、徐々に形を保てなくなっていく。
「……プリエール、僕も“穢れ”……黒いモヤでおかしくなった親友を探している。みんなそれぞれ目的は異なるけど、旅のどこで手がかりに繋がるかわからない。一緒に行動するメリットもあるんだ」
「結局どれも放っておけないことばっかりだから、みんな一緒に対処してった方が確実だと思うよ」
「うーん……」
モーアンとサニーの言葉に考え込むプリエール。そこにシグルスが歩み寄り、
「……毎回ああやって隠れながら進むわけにはいかないだろう?」
と、至極もっともな指摘をした。
実際“幻惑の衣”は魔物から身を隠すことはできるが、じっとしていないと布に映した景色も動いてしまうため、それだけで進むのは困難だろう。
「それもそうね……いいわ。禁呪の魔法士もあたしひとりじゃ倒せないだろうし」
『決まりじゃの。エイミ、プリエールの手をギュッと握ってくれんか?』
「? はい、こうですか?」
ふたりの手が繋がれた瞬間、共鳴するように互いの胸から強い光が発せられた。
やや大粒のエイミの輝きから、まだ微かなプリエールの輝きへ、光の粒子がすうっと移っていく。
「これは……」
「何かしら……あったかいわ。なんだかホッとするような、力が湧いてくるような……」
大粒の光はそのまま、小さな頼りない光は、やがてしっかりと形を得る。
「エイミちゃんたちの中にある女神様が託した力……“聖なる種子”と同じなの?」
『おぬしの中にあったのは、そのまた小さな欠片じゃがな。今ので芽吹くきっかけを得た。そして精霊との契約も繋がったから、そのうち成長が追いつくじゃろう』
光精霊が言うには、これでプリエールも今までエイミたちが出会った精霊たちと契約したことになるそうだ。
不思議な儀式のような一連の流れを、サニーとシグルスがぽかんと見つめていた。
「アタシそんなのやらなかったよ?」
「俺もだな」
『今のやり方が手っ取り早いが、おぬしたちの欠片はあの極限状態で既にほとんど芽吹いておったからのう』
手っ取り早いやり方があるなら教えてほしかったよー、と口を尖らせる少女が場の空気を和ませる。
ひとしきり見守っていた風精霊が、くるりとエイミたちに向き直った。
『……さて。改めて、我が名は風の精霊ラクトだ。これから宜しく頼む』
「あたしも、よろしくね。派手にブッ飛ばす魔法ならまかせて!」
「出会って早々に物騒だなぁ……」
ははは、と笑うモーアンや仲間たちを取り巻く風がふわりと優しくなる。
どうやら風詠の谷は、エイミたちを穏やかに受け入れたようだ。