27:グリングランへの帰路

 風詠の谷で精霊と会うためエイミたちの後をつけてきた魔法士プリエールは、ここで初めて精霊の姿を目にした。
 古い書物に記された特徴と一致する姿もさることながら、この場の風が、大気が、自然と彼に付き従っている光景こそ見る者に精霊という存在を理解させるものとなるだろう。

「すご……」
『ラクトのヤツ、いちいち大仰なんだよなぁ……』

 茫然とするプリエールの横で、火精霊ルベインがやれやれと溜息を吐く。

「あっ、そういえばあなたも精霊なのよね!? すごい、一度に二体も会えるなんて……!」
『そういえばってお前……』

 先に出てきたはずなのにそれこそ“大仰”な演出でインパクトをかっさらわれた火精霊はジト目でプリエールを睨む。

『二体じゃないぞい』
『これで五体目だなぁ』
『数奇な縁の結びつきで、な』
「ええええ!?」

 順番に光、地、闇精霊も。さすがに想像だにしなかった登場に、プリエールの驚きが止まらない。
 いくら魔法都市マギカルーンの学者といえども、直に精霊と対面した者はそう多くはないだろう。

「アマ爺もみんなも……プリエールがいいリアクションするからってはしゃいじゃって」
『おじーちゃん、フランクな精霊なんじゃないの?』
『それはそれ、これはこれじゃよう』

 てへぺろ、と茶目っ気たっぷりな光精霊に呆れ顔のモーアンとミュー。彼らにとっては、この精霊のジョークはもう慣れたものではあるのだが。

「精霊……というか、大精霊が、住処を離れて姿を現すなんてそうそうないことよ?」
『契約者がいない限りはな。つまりはそういうことだろう。女神レレニティアの力の一部、聖なる種子を託された者たちなら、契約に値すると』
「り、理解が追いつかないわ……」

 一気に力が抜け、ぺたんとその場に座り込むプリエール。
 エイミたちは順を追って状況を受け入れてきたが、アルバトロスの行方だけを追ってひとり旅してきたプリエールには何もかもが知らないことだらけだった。

『私も君たちの事情を改めて聞いておきたい。彼女の理解のためにも、話してくれないか?』
『この嬢ちゃんも“聖なる種子”の欠片を託されたひとりみてえだしな』
「えっ?」

 風と地の精霊の言葉で、へたりこんでいたプリエールに一斉に視線が集まる。
 考えてみれば彼女もシグルスやサニーのように千年前の脅威と対峙し、ルクシアル神殿の扉を叩いたのだから、条件は揃っていた。

「え、え、なに?」
「プリエールさんも……?」
『だから、彼女も君たちの事情を聞いた方が良い。この世界に迫る危機は、ひとつではないのだから』

 魔族に悪魔、それに加えて“穢れ”をばら撒こうとしている者も、世界のあちこちで暗躍し、各地に異変をもたらしている。
 エイミたちひとりひとりの旅の目的は違うが、どの敵もひとりではどうにもならないほどに強大なものばかりだ。

「……すみません、プリエールさん。少し長い話になりますが……」
「わ、わかったわ。ゆっくりお願いね」

 ごくりと息を呑むプリエールに、エイミたちは順番に語り始めるのであった。
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