26:風吹く谷で
「大地よ、守りを!」
エイミが叫ぶと、最前線で敵を引きつけていたフォンドの全身が淡い輝きに包まれる。
きらめく黄金色の薄い光の膜はよく見れば細かな砂の粒子が浮かび、攻撃を受けた箇所に集まることで魔物の鋭い爪を受け止め、衝撃を和らげた。
「これは……エイミの魔法が守ってくれた?」
「続けていきます! 炎よ、力を!」
今度はサニーが紅い光を纏う。途端に全身に熱いものが巡り、腕を振れば力が上乗せされるような感じがした。
手数は多いがやや決定打に欠ける彼女の攻撃が、しっかりと魔物に通るようになった。
「すっごい……パワーアップしちゃった!」
「エイミの魔法は仲間を助ける力なんだね」
攻撃魔法より詠唱が短く、しばらく効果が続く強化魔法。派手さはないものの打たれ弱い後衛を守ることにも使え、自分も前線に出るエイミが自身にも付与できる、彼女らしい魔法といえるだろう。
罠を仕掛けて群れで襲いかかり優位に立っていたはずの魔物たちも、あっという間に倒されていった。
「これで、終わりだっ!」
最後の一匹の胴を、フォンドが放った拳の衝撃が貫く。
魔物は数枚の羽根を残して消え、花畑は静けさを取り戻した。
「さすがにちょっと疲れちゃったぁ……行こっか」
「うん。でもその前に……」
モーアンは静かに後ろを振り返った。
激しい戦いに突入する直前の違和感を、彼は忘れていない。
「そこに誰かいるんだね?」
「あっ、そういやさっき声がしたね」
びく、と何かが動く気配と共に、景色の一部がわずかに歪んだ。
幻惑の衣でじっと身を潜めていた“誰か”は、存在を言い当てられてしぶしぶ顔を出す。
「あはは……さすがにバレちゃったわね」
「あなたは……!」
瞳と同じたんぽぽ色のリボンでゆったりとサイドで結んだ、桃花色の肩より少し長めのふんわりした髪。
桃色系統で纏めた服はロングスカートが花弁のようで、袖口が広く袖が後ろで繋がったジャケットが特徴的だ。
モーアンとそう変わらない年頃の彼女は、リプルスーズでエイミたちが出会った“魔法学者”である。
「リプルスーズで一緒に戦った……!」
「通りすがりの魔法学者のお姉さん!」
「へ、知ってるの?」
この中ではモーアンだけが彼女と初対面だった。
魔法学者は目をぱちくりさせ、一拍おいてにっこりと笑う。
「そういや、ちゃんと自己紹介してなかったわね。あたしは魔法学者プリエール。魔法士でもあるわ」
「魔法士?」
「マギカルーンで魔法道具作ったり研究してる技術者のこと。あたしは魔法全般の学者でもあるし、そっちの方が伝わるから普段はそっち名乗ってるんだけどね」
おっとりした印象の垂れ目だが、薄いリップを引いた唇から発する言葉はハキハキしている。
そして魔法道具で身を隠しているとはいえ、危険な場所にこうやって一人で後をつけて来るのだから、度胸と行動力があるのだろう。
「ブリーゼさんに精霊の住処を聞いていた学者さんがいるとは聞いていたけど、まさかついて来るとは思わなかったなぁ」
「精霊には会いたかったけど、あたし一人じゃさすがにね。どうしようかと考えてたら、町中であなたたちが風詠の谷に向かうって言ってるのが聴こえてきたの」
どうやら彼女は谷へ行くため準備を整えていたエイミたちの会話を聞いていたらしい。それにしても……
「おねーさん、強いんだし……一言声をかけてくれたら、一緒に行くのもアリだったんじゃないかな?」
リプルスーズで、彼女は魔法や不思議な光弾を発して魔物を退けていた。
サニーのもっともな指摘にプリエールは「あ」といまさら気づいたような声を発するのであった。
エイミが叫ぶと、最前線で敵を引きつけていたフォンドの全身が淡い輝きに包まれる。
きらめく黄金色の薄い光の膜はよく見れば細かな砂の粒子が浮かび、攻撃を受けた箇所に集まることで魔物の鋭い爪を受け止め、衝撃を和らげた。
「これは……エイミの魔法が守ってくれた?」
「続けていきます! 炎よ、力を!」
今度はサニーが紅い光を纏う。途端に全身に熱いものが巡り、腕を振れば力が上乗せされるような感じがした。
手数は多いがやや決定打に欠ける彼女の攻撃が、しっかりと魔物に通るようになった。
「すっごい……パワーアップしちゃった!」
「エイミの魔法は仲間を助ける力なんだね」
攻撃魔法より詠唱が短く、しばらく効果が続く強化魔法。派手さはないものの打たれ弱い後衛を守ることにも使え、自分も前線に出るエイミが自身にも付与できる、彼女らしい魔法といえるだろう。
罠を仕掛けて群れで襲いかかり優位に立っていたはずの魔物たちも、あっという間に倒されていった。
「これで、終わりだっ!」
最後の一匹の胴を、フォンドが放った拳の衝撃が貫く。
魔物は数枚の羽根を残して消え、花畑は静けさを取り戻した。
「さすがにちょっと疲れちゃったぁ……行こっか」
「うん。でもその前に……」
モーアンは静かに後ろを振り返った。
激しい戦いに突入する直前の違和感を、彼は忘れていない。
「そこに誰かいるんだね?」
「あっ、そういやさっき声がしたね」
びく、と何かが動く気配と共に、景色の一部がわずかに歪んだ。
幻惑の衣でじっと身を潜めていた“誰か”は、存在を言い当てられてしぶしぶ顔を出す。
「あはは……さすがにバレちゃったわね」
「あなたは……!」
瞳と同じたんぽぽ色のリボンでゆったりとサイドで結んだ、桃花色の肩より少し長めのふんわりした髪。
桃色系統で纏めた服はロングスカートが花弁のようで、袖口が広く袖が後ろで繋がったジャケットが特徴的だ。
モーアンとそう変わらない年頃の彼女は、リプルスーズでエイミたちが出会った“魔法学者”である。
「リプルスーズで一緒に戦った……!」
「通りすがりの魔法学者のお姉さん!」
「へ、知ってるの?」
この中ではモーアンだけが彼女と初対面だった。
魔法学者は目をぱちくりさせ、一拍おいてにっこりと笑う。
「そういや、ちゃんと自己紹介してなかったわね。あたしは魔法学者プリエール。魔法士でもあるわ」
「魔法士?」
「マギカルーンで魔法道具作ったり研究してる技術者のこと。あたしは魔法全般の学者でもあるし、そっちの方が伝わるから普段はそっち名乗ってるんだけどね」
おっとりした印象の垂れ目だが、薄いリップを引いた唇から発する言葉はハキハキしている。
そして魔法道具で身を隠しているとはいえ、危険な場所にこうやって一人で後をつけて来るのだから、度胸と行動力があるのだろう。
「ブリーゼさんに精霊の住処を聞いていた学者さんがいるとは聞いていたけど、まさかついて来るとは思わなかったなぁ」
「精霊には会いたかったけど、あたし一人じゃさすがにね。どうしようかと考えてたら、町中であなたたちが風詠の谷に向かうって言ってるのが聴こえてきたの」
どうやら彼女は谷へ行くため準備を整えていたエイミたちの会話を聞いていたらしい。それにしても……
「おねーさん、強いんだし……一言声をかけてくれたら、一緒に行くのもアリだったんじゃないかな?」
リプルスーズで、彼女は魔法や不思議な光弾を発して魔物を退けていた。
サニーのもっともな指摘にプリエールは「あ」といまさら気づいたような声を発するのであった。