26:風吹く谷で
風詠の谷は枝分かれしながら、時に途切れた足場で、時に激しい風で、そして襲いくる魔物でエイミたちの行く手を阻む。
中でも空を飛ぶ虫や鳥型の魔物が多いが、ここに住むであろう彼らもやはり風の影響か感知できないほど高い位置から襲ってくることはなく、多少のやりづらさはあっても対処にそれほど苦戦することはなかった。
『動きが制限されるのも不便ばかりじゃないわね』
「本当ね。あ、でも気流の激しいところは鍛錬になるかもしれないわ!」
『アナタの怖いところはそれを本気で言ってるとこよね………』
こんな状況でも修行に繋げようとする。いかにもエイミらしい考えだと溜息を吐くミュー。
と、そこで視線の先に何かを見つけ、動きを止めた。
『あそこ、誰かいる……倒れてるわ!』
少し開けた場所の花畑。その中央にひとり、横たわる者がいた。
「あの髪の色は、まさか……!」
長い、桃色の髪の女性――グリングランでブリーゼに風の精霊の住処を聞いていたのが、ちょうどそんな人物だったと一行は思い出した。
「あれ? オレこういうのなんか聞き覚えが……」
「何にせよ早く助けないと!」
まず駆け出したのは一番身軽なサニー。倒れている女性にあと一歩というところまで一気に距離を詰めるが……
「「近づいちゃダメ!」」
咄嗟に叫んだ声はふたつ。ひとりはモーアンと、もうひとりは……この中の誰でもないものだった。
「えっ?」
振り向いたサニーの背後で、桃色の髪の女性がおもむろに立ち上がる。先程まではわからなかったが、両腕の代わりに翼を生やし、脚も鳥のそれと同じで足先には鋭い鉤爪があった。
美しくもあるがどこか無機質な顔も、人間のそれとは違う……鳥人、という呼び名がしっくりくるだろう。
「思い出した! 人間のフリしておびき寄せた獲物を襲う魔物だ!」
「ひゃあぁ!? フォンド兄ちゃん、おそいよー!」
ものすごい速さで飛び退いて魔物から離れると、サニーは慌てて両手に短剣を構える。
なんか猫みたいだな……そう思ったことは、シグルスの胸にそっと秘められた。
「さっきの声は一体……?」
「それは後だ。来るぞ!」
獲物を仕留め損ねた鳥人は甲高い声をあげて仲間を呼び、群れを成してエイミたちを取り囲む。
ギャアギャアと鳴き声を発しながら牙を剥き出しにする鳥人たちは、やはり魔物なのだと思い知らされた。
「素早いけど防御は脆い。こういう相手には硬い岩をぶつけてやれって親父が言ってたっけ……」
「なるほど、わかった」
フォンドの言葉を受け、シグルスはフォンドの拳に魔法をかける。
黄金色に輝く両手を見つめ、フォンドがおお、と声をあげた。
「地精霊の力を宿した。行ってこい、硬い岩」
「オレが岩かよ!」
ツッコミを入れながら地を蹴って、鳥人に攻撃を当てるとその度に重い音と共に黄金の光が弾け、ギャア、と魔物が仰け反る。
通常の武器で攻撃するより効果が高いのは、魔物の反応を見ても明らかだ。
「すごい……」
『フォンドやサニーのもそうだけど、魔法って直接ぶつけるだけじゃないのね』
武器に精霊の力を宿す魔法に、継続的に回復する魔法、相手の動きを制限する魔法。力の使い道は、単純な攻撃や回復だけじゃない。
(それなら、わたしは……)
胸に手をあて、そっと目を閉じると瞼の裏に黄金色の小さな光が灯る。
『力の使い道、決まったか?』
エイミの心に直接問いかけてきたのは、地精霊ガネットだった。
頑強で優しい大地の力。エイミがそれを扱うなら、その使い道は……
中でも空を飛ぶ虫や鳥型の魔物が多いが、ここに住むであろう彼らもやはり風の影響か感知できないほど高い位置から襲ってくることはなく、多少のやりづらさはあっても対処にそれほど苦戦することはなかった。
『動きが制限されるのも不便ばかりじゃないわね』
「本当ね。あ、でも気流の激しいところは鍛錬になるかもしれないわ!」
『アナタの怖いところはそれを本気で言ってるとこよね………』
こんな状況でも修行に繋げようとする。いかにもエイミらしい考えだと溜息を吐くミュー。
と、そこで視線の先に何かを見つけ、動きを止めた。
『あそこ、誰かいる……倒れてるわ!』
少し開けた場所の花畑。その中央にひとり、横たわる者がいた。
「あの髪の色は、まさか……!」
長い、桃色の髪の女性――グリングランでブリーゼに風の精霊の住処を聞いていたのが、ちょうどそんな人物だったと一行は思い出した。
「あれ? オレこういうのなんか聞き覚えが……」
「何にせよ早く助けないと!」
まず駆け出したのは一番身軽なサニー。倒れている女性にあと一歩というところまで一気に距離を詰めるが……
「「近づいちゃダメ!」」
咄嗟に叫んだ声はふたつ。ひとりはモーアンと、もうひとりは……この中の誰でもないものだった。
「えっ?」
振り向いたサニーの背後で、桃色の髪の女性がおもむろに立ち上がる。先程まではわからなかったが、両腕の代わりに翼を生やし、脚も鳥のそれと同じで足先には鋭い鉤爪があった。
美しくもあるがどこか無機質な顔も、人間のそれとは違う……鳥人、という呼び名がしっくりくるだろう。
「思い出した! 人間のフリしておびき寄せた獲物を襲う魔物だ!」
「ひゃあぁ!? フォンド兄ちゃん、おそいよー!」
ものすごい速さで飛び退いて魔物から離れると、サニーは慌てて両手に短剣を構える。
なんか猫みたいだな……そう思ったことは、シグルスの胸にそっと秘められた。
「さっきの声は一体……?」
「それは後だ。来るぞ!」
獲物を仕留め損ねた鳥人は甲高い声をあげて仲間を呼び、群れを成してエイミたちを取り囲む。
ギャアギャアと鳴き声を発しながら牙を剥き出しにする鳥人たちは、やはり魔物なのだと思い知らされた。
「素早いけど防御は脆い。こういう相手には硬い岩をぶつけてやれって親父が言ってたっけ……」
「なるほど、わかった」
フォンドの言葉を受け、シグルスはフォンドの拳に魔法をかける。
黄金色に輝く両手を見つめ、フォンドがおお、と声をあげた。
「地精霊の力を宿した。行ってこい、硬い岩」
「オレが岩かよ!」
ツッコミを入れながら地を蹴って、鳥人に攻撃を当てるとその度に重い音と共に黄金の光が弾け、ギャア、と魔物が仰け反る。
通常の武器で攻撃するより効果が高いのは、魔物の反応を見ても明らかだ。
「すごい……」
『フォンドやサニーのもそうだけど、魔法って直接ぶつけるだけじゃないのね』
武器に精霊の力を宿す魔法に、継続的に回復する魔法、相手の動きを制限する魔法。力の使い道は、単純な攻撃や回復だけじゃない。
(それなら、わたしは……)
胸に手をあて、そっと目を閉じると瞼の裏に黄金色の小さな光が灯る。
『力の使い道、決まったか?』
エイミの心に直接問いかけてきたのは、地精霊ガネットだった。
頑強で優しい大地の力。エイミがそれを扱うなら、その使い道は……