25:緑の国へ
グリングラン警備隊の竜騎士たちはいずれもスタイル抜群の美女揃いだが、エイミの細腕からは想像もつかない剛力ぶりを知っていると迂闊に鼻の下も伸ばせないだろう。
とはいえこの町で育ったフォンドにとっては「見慣れた近所の姉ちゃんたち」でしかなく、竜騎士たちも彼を弟のように可愛がっているのだとか。
「エルミナ、フォンド。それに旅の仲間たちも、よく来てくれたな」
会議室のような大部屋に通されたエイミたちは、ブリーゼが待つテーブルにそれぞれつき、辺りを見回した。
「話には聞いていたけど、本当に町を守る竜騎士さんが大勢いるんだね……」
「いや、いつもより多いぜ。見慣れない顔もいる。ブリーゼさん、これって……」
フォンドが問いかけると、ブリーゼは「ああ」と頷く。
「ドラゴニカの城やふもとの村にいた者たちだ。非戦闘員たちも皆グリングランに受け入れてもらっている」
「みんな、逃げ延びてくれたんですね……」
安堵に胸を撫で下ろすエイミ。ドラゴニカでガルディオに操られた竜の襲撃を受け、周りの状況を知る余裕もなく身を守るため逃げるしかなかった彼女は、ずっとそれが気掛かりだったのだ。
竜騎士たちは自分より経験豊富な強者ばかりだが、それでも非戦闘員を守りながらでは……
(こうして目の当たりにすることができてよかったわ……)
ほう、と溜め息を吐くエイミに、ブリーゼが優しい眼差しを注ぐ。
「城でのことも彼女たちから聞かされた。本当に、辛い目に遭ったな……」
「……はい」
「だが、同時にお前がどれだけ頑張ったかもよくわかった。もちろんミューもだ」
旅に出る前のエイミは懸命に鍛錬を重ねてはいたが実戦での経験は明らかに不足していた。ミューに至ってはやる気が見られなかったこともブリーゼはよく知っている。
平和な世界だったこの今のレレニティアで、そういったことは珍しくもない。それなのに、彼女たちは突然否応なしに過酷な戦いの旅に放り出されたのだ。
頼るものもなく、身ひとつで……それがどれだけのことか、想像しただけでブリーゼの表情が険しくなる。
「……えーと、こないだから気になってたんだけど。エイミと、ブリーゼさんの関係って何なんだ?」
と、ふいにフォンドが質問を投げかけた。
エイミのことも、女王であるパメラさえも呼び捨てにする彼女は、他の竜騎士とは立場が異なるように見える。
「ああ、言ってなかったな。私は彼女の叔母だ」
「わたしとパメラ姉様の師匠でもあるんですよ」
「うえ!? エイミがつえーワケだぜ……」
半竜人であることを差し引いても、エイミの槍は鋭く速く、無駄がない。
妙に納得するフォンドが以前言っていた「まだ一度も勝てたことがない」という話を思い出し、ブリーゼを知らないモーアンたちもまだ見ぬ彼女の強さを想像した。
「あの……フォンドとブリーゼの関係も聞いてもいいですか?」
「ああ、親父の友達。たまに来て親父と話すついでに、オレやジャーマに稽古つけてくれたんだ」
あっけらかんと話すフォンドにブリーゼが二、三度まばたきをする。
「友達、か……ふふ、そうだな。十三年前の魔物の大量発生で共闘して、意気投合したのが始まりだった」
穏やかに目を細め、ふんわり和らいだ笑顔。
友達、という言葉とブリーゼの反応にモーアンとミューがそれとなく顔を見合わせる。
(これ、ホントに“友達”かなぁ?)
(ちょーっとアヤシいわよねぇ?)
妙に含みのあるふたりの視線に気づいたブリーゼは「話を戻そう」とわざとらしく咳払いをするだった。
とはいえこの町で育ったフォンドにとっては「見慣れた近所の姉ちゃんたち」でしかなく、竜騎士たちも彼を弟のように可愛がっているのだとか。
「エルミナ、フォンド。それに旅の仲間たちも、よく来てくれたな」
会議室のような大部屋に通されたエイミたちは、ブリーゼが待つテーブルにそれぞれつき、辺りを見回した。
「話には聞いていたけど、本当に町を守る竜騎士さんが大勢いるんだね……」
「いや、いつもより多いぜ。見慣れない顔もいる。ブリーゼさん、これって……」
フォンドが問いかけると、ブリーゼは「ああ」と頷く。
「ドラゴニカの城やふもとの村にいた者たちだ。非戦闘員たちも皆グリングランに受け入れてもらっている」
「みんな、逃げ延びてくれたんですね……」
安堵に胸を撫で下ろすエイミ。ドラゴニカでガルディオに操られた竜の襲撃を受け、周りの状況を知る余裕もなく身を守るため逃げるしかなかった彼女は、ずっとそれが気掛かりだったのだ。
竜騎士たちは自分より経験豊富な強者ばかりだが、それでも非戦闘員を守りながらでは……
(こうして目の当たりにすることができてよかったわ……)
ほう、と溜め息を吐くエイミに、ブリーゼが優しい眼差しを注ぐ。
「城でのことも彼女たちから聞かされた。本当に、辛い目に遭ったな……」
「……はい」
「だが、同時にお前がどれだけ頑張ったかもよくわかった。もちろんミューもだ」
旅に出る前のエイミは懸命に鍛錬を重ねてはいたが実戦での経験は明らかに不足していた。ミューに至ってはやる気が見られなかったこともブリーゼはよく知っている。
平和な世界だったこの今のレレニティアで、そういったことは珍しくもない。それなのに、彼女たちは突然否応なしに過酷な戦いの旅に放り出されたのだ。
頼るものもなく、身ひとつで……それがどれだけのことか、想像しただけでブリーゼの表情が険しくなる。
「……えーと、こないだから気になってたんだけど。エイミと、ブリーゼさんの関係って何なんだ?」
と、ふいにフォンドが質問を投げかけた。
エイミのことも、女王であるパメラさえも呼び捨てにする彼女は、他の竜騎士とは立場が異なるように見える。
「ああ、言ってなかったな。私は彼女の叔母だ」
「わたしとパメラ姉様の師匠でもあるんですよ」
「うえ!? エイミがつえーワケだぜ……」
半竜人であることを差し引いても、エイミの槍は鋭く速く、無駄がない。
妙に納得するフォンドが以前言っていた「まだ一度も勝てたことがない」という話を思い出し、ブリーゼを知らないモーアンたちもまだ見ぬ彼女の強さを想像した。
「あの……フォンドとブリーゼの関係も聞いてもいいですか?」
「ああ、親父の友達。たまに来て親父と話すついでに、オレやジャーマに稽古つけてくれたんだ」
あっけらかんと話すフォンドにブリーゼが二、三度まばたきをする。
「友達、か……ふふ、そうだな。十三年前の魔物の大量発生で共闘して、意気投合したのが始まりだった」
穏やかに目を細め、ふんわり和らいだ笑顔。
友達、という言葉とブリーゼの反応にモーアンとミューがそれとなく顔を見合わせる。
(これ、ホントに“友達”かなぁ?)
(ちょーっとアヤシいわよねぇ?)
妙に含みのあるふたりの視線に気づいたブリーゼは「話を戻そう」とわざとらしく咳払いをするだった。
