25:緑の国へ
緑の国グリングランは城塞都市ディフェットや砂漠の国ミスベリアともまた違った、のどかで穏やかな空気だった。
それは市場に並び瑞々しく輝く野菜や果物からもわかるように、グリングランの豊かな風土のおかげもあるのだろうが……
「ようフォンド、久しぶりだな」
「やだぁフォンドちゃん、急に来なくなって心配したじゃない!」
この町で育ったというフォンドの顔を見るなり、笑顔で気さくに声をかけてくる住人たち。
いい加減ちゃん付けはやめてくれよ、と顔を赤らめながら、そのひとりひとりに挨拶を返すフォンド。
彼の親しみやすさはこうして作られたのだろうな、とモーアンはひとり納得していた。
そこに、
「あ、エルミナ様!」
「えっ?」
突然本名を呼ばれ、振り向いたエイミの前には竜騎士の女性がふたり、目の端に涙を滲ませていた。
「わぁぁん姫様ご無事で!」
「しんぱいしましたぁぁぁぁ!」
「ちょ、ちょっと、ふたりとも……!?」
グリングランはドラゴニカと共生関係にあり、豊かな食糧を供給する一方と、精鋭の竜騎士を警備につかせるもう一方で成り立っている。
そのため、この町では竜騎士の姿も当たり前に見かけるものなのだ。
「人気者だな、姫様」
「それにフォンド“ちゃん”もね?」
「シグルス、サニー、てめえら……」
腕組みしながらにやにやと笑みを浮かべるシグルスと、便乗してからかうサニー。
一歩引いて見守るポジションがすっかり板についたモーアンとミューは呆れ顔だ。
「やれやれ、すっかり打ち解けたのはいいけど……」
『スカしてるようでシグルスも意外とお子サマなのねぇ』
僕からすれば、みんなそんなに変わらないなぁ……などという言葉は呑み込んで、モーアンは苦笑いではぐらかす。
そんなエイミたち一行を、竜騎士たちは不思議そうに見つめていた。
「……あの、エルミナ様。旅をしていらっしゃるそうですが……」
「フォンド君がいるのは聞いていますが、まさかそちらの方たちも……?」
エイミとミュー、フォンド以外に向ける竜騎士の視線は、訝しむといった感じだった。
フォンドのことは長年見てきて彼女たちも人柄をよく知っているのだろうが、それ以外の同行者は年齢も立場もバラバラで、その中には小さな少女やハーフエルフもいる。
彼らを初対面で手放しで信用するには怪しい、というのが現実だ。
「わたしの……旅の仲間で、大事なお友達です。ここまで随分助けてもらいました」
「エイミ……」
「場所を移しましょう。ひとりひとり、きちんと紹介もしたいですし……ブリーゼも来ているのでしょう?」
王女の毅然とした返しに、竜騎士たちの背筋がぴんと伸びる。
旅の最中、何度か垣間見たエイミのこういった一面は、仲間たちに改めて彼女が王族であることを感じさせた。
「わかりました。町の角に警備隊の詰所があります。ブリーゼ様もそちらにおりますので、話の続きは詰所で……」
「ええ」
竜騎士が示した先には、確かに他より彩りがなく少し物々しい、それらしき建物が見える。
こうして、竜騎士たちに案内され、エイミたちはグリングラン警備隊の詰所へと向かうのだった。
それは市場に並び瑞々しく輝く野菜や果物からもわかるように、グリングランの豊かな風土のおかげもあるのだろうが……
「ようフォンド、久しぶりだな」
「やだぁフォンドちゃん、急に来なくなって心配したじゃない!」
この町で育ったというフォンドの顔を見るなり、笑顔で気さくに声をかけてくる住人たち。
いい加減ちゃん付けはやめてくれよ、と顔を赤らめながら、そのひとりひとりに挨拶を返すフォンド。
彼の親しみやすさはこうして作られたのだろうな、とモーアンはひとり納得していた。
そこに、
「あ、エルミナ様!」
「えっ?」
突然本名を呼ばれ、振り向いたエイミの前には竜騎士の女性がふたり、目の端に涙を滲ませていた。
「わぁぁん姫様ご無事で!」
「しんぱいしましたぁぁぁぁ!」
「ちょ、ちょっと、ふたりとも……!?」
グリングランはドラゴニカと共生関係にあり、豊かな食糧を供給する一方と、精鋭の竜騎士を警備につかせるもう一方で成り立っている。
そのため、この町では竜騎士の姿も当たり前に見かけるものなのだ。
「人気者だな、姫様」
「それにフォンド“ちゃん”もね?」
「シグルス、サニー、てめえら……」
腕組みしながらにやにやと笑みを浮かべるシグルスと、便乗してからかうサニー。
一歩引いて見守るポジションがすっかり板についたモーアンとミューは呆れ顔だ。
「やれやれ、すっかり打ち解けたのはいいけど……」
『スカしてるようでシグルスも意外とお子サマなのねぇ』
僕からすれば、みんなそんなに変わらないなぁ……などという言葉は呑み込んで、モーアンは苦笑いではぐらかす。
そんなエイミたち一行を、竜騎士たちは不思議そうに見つめていた。
「……あの、エルミナ様。旅をしていらっしゃるそうですが……」
「フォンド君がいるのは聞いていますが、まさかそちらの方たちも……?」
エイミとミュー、フォンド以外に向ける竜騎士の視線は、訝しむといった感じだった。
フォンドのことは長年見てきて彼女たちも人柄をよく知っているのだろうが、それ以外の同行者は年齢も立場もバラバラで、その中には小さな少女やハーフエルフもいる。
彼らを初対面で手放しで信用するには怪しい、というのが現実だ。
「わたしの……旅の仲間で、大事なお友達です。ここまで随分助けてもらいました」
「エイミ……」
「場所を移しましょう。ひとりひとり、きちんと紹介もしたいですし……ブリーゼも来ているのでしょう?」
王女の毅然とした返しに、竜騎士たちの背筋がぴんと伸びる。
旅の最中、何度か垣間見たエイミのこういった一面は、仲間たちに改めて彼女が王族であることを感じさせた。
「わかりました。町の角に警備隊の詰所があります。ブリーゼ様もそちらにおりますので、話の続きは詰所で……」
「ええ」
竜騎士が示した先には、確かに他より彩りがなく少し物々しい、それらしき建物が見える。
こうして、竜騎士たちに案内され、エイミたちはグリングラン警備隊の詰所へと向かうのだった。