24:覚悟を決めて
女王である姉の陰に隠れ、目立たない、頼りない王女。
何もかもを失って相棒のミューと旅に出た当初は、不安ばっかりで。
身分を隠した方が良いだろうか……そう思った時、咄嗟に名乗った偽名が“エイミ”だった。
「確かエルミナって王女の名前だよな。女王の妹の……」
「お姫様なの? でも、言われてみると確かに……」
どよめきが起こる仲間たちの表情は困惑。エイミはぐっと拳を握り締める。
「……ごめんなさい。明かすタイミングを逃したまま、ここまできてしまいました」
「無闇に明かせるものでもないと思うよ。旅先で出会った、見ず知らずの相手だからね」
「いいえ……!」
モーアンのフォローを強く否定し、真っ直ぐに見つめ返す。
「最初はそうでも、今は違います。これだけの苦楽を共にして、たくさん助けていただいて……わたしにとって、大切な仲間です!」
「えっ、あ……ごめん。それは僕にとっても同じだよ。エイミも、みんなも、もう仲間のつもりだ」
棘を含めたつもりはなかったが、日頃やりがちな遠回しな言い方が今は少しだけ悪さをしてしまったらしい。
謝罪を受け、自身が過敏になっていたことに気づいたエイミもまた「わたしの方こそ……」と頭を下げた。
「最初は、その場しのぎの仮の名前のつもりでした。でも、次第に“エイミ”として、ただの旅の仲間として皆さんの傍にいることが心地よくなって……もし王女であることを明かしたら、今までどおり接してもらえないかもしれないって思って」
「そういうことか……ふざけたことを言うな」
無遠慮なシグルスの一言に、エイミがびくりと肩を跳ねさせる。
だが彼の表情は怒りではなく、呆れたようなそれで、
「俺のことをハーフエルフでもお尋ね者でもない“シグルス”として受け入れたのはお前たちだろう?」
「あ……」
「そんなものは今更だ」
言い切ったシグルスの脇腹を「言うじゃん、兄ちゃん」とサニーが肘で小突く。
「アタシはそもそもレイン……レーゲン王子とあんなカンジだからさぁ、気にしないよ?」
あっけらかんとした、実に彼女らしい返答。知り合ってまだ日が浅いふたりの答えは、同じものだった。
残るふたりは、特に付き合いの長いメンバー。それだけ真実を隠していた時間も長くなるが……
「実はさぁ……僕もところどころ、少なくとも貴族とか、身分の高い子なんじゃないかっていうのは思ってたよ。どことなく気品を感じる時があるからね」
「うっ」
「そうそう。グリングランの警備隊の姉ちゃんたちとはちょっと雰囲気違うし、あんま世間知らないみたいだし。まさかお姫様とは思わなかったけどよ」
「ううっ」
あ、あまり隠せていない……
薄々そんな気はしていたものの、それぞれから改めて言葉にされると少なからずショックを受けるエイミ。
そんな彼女に、ふたりはにっこりと笑顔を向けた。
「オレにとって、エイミはエイミだ。お姫様とか関係ねぇよ」
「真面目で一生懸命で心優しい、頼れる仲間だよ」
「み、皆さん……」
ぽろ、ぽろり。自然と溢れる涙はエイミの心まで熱くする。
「ありがとう、ございます……これからも“エイミ”と呼んでくれますか?」
震える声。少女の胸を満たすのは悲しみではなく、喜びで。
「おう! 改めてよろしくな、エイミ!」
「はい!」
仲間たちにあたたかく迎え入れられ、目の端に涙を滲ませながら微笑むエイミ。
彼女の後ろで、相棒の竜は顔を背けると『よかったわね』とそっと呟き、微かに身を震わせていた。
何もかもを失って相棒のミューと旅に出た当初は、不安ばっかりで。
身分を隠した方が良いだろうか……そう思った時、咄嗟に名乗った偽名が“エイミ”だった。
「確かエルミナって王女の名前だよな。女王の妹の……」
「お姫様なの? でも、言われてみると確かに……」
どよめきが起こる仲間たちの表情は困惑。エイミはぐっと拳を握り締める。
「……ごめんなさい。明かすタイミングを逃したまま、ここまできてしまいました」
「無闇に明かせるものでもないと思うよ。旅先で出会った、見ず知らずの相手だからね」
「いいえ……!」
モーアンのフォローを強く否定し、真っ直ぐに見つめ返す。
「最初はそうでも、今は違います。これだけの苦楽を共にして、たくさん助けていただいて……わたしにとって、大切な仲間です!」
「えっ、あ……ごめん。それは僕にとっても同じだよ。エイミも、みんなも、もう仲間のつもりだ」
棘を含めたつもりはなかったが、日頃やりがちな遠回しな言い方が今は少しだけ悪さをしてしまったらしい。
謝罪を受け、自身が過敏になっていたことに気づいたエイミもまた「わたしの方こそ……」と頭を下げた。
「最初は、その場しのぎの仮の名前のつもりでした。でも、次第に“エイミ”として、ただの旅の仲間として皆さんの傍にいることが心地よくなって……もし王女であることを明かしたら、今までどおり接してもらえないかもしれないって思って」
「そういうことか……ふざけたことを言うな」
無遠慮なシグルスの一言に、エイミがびくりと肩を跳ねさせる。
だが彼の表情は怒りではなく、呆れたようなそれで、
「俺のことをハーフエルフでもお尋ね者でもない“シグルス”として受け入れたのはお前たちだろう?」
「あ……」
「そんなものは今更だ」
言い切ったシグルスの脇腹を「言うじゃん、兄ちゃん」とサニーが肘で小突く。
「アタシはそもそもレイン……レーゲン王子とあんなカンジだからさぁ、気にしないよ?」
あっけらかんとした、実に彼女らしい返答。知り合ってまだ日が浅いふたりの答えは、同じものだった。
残るふたりは、特に付き合いの長いメンバー。それだけ真実を隠していた時間も長くなるが……
「実はさぁ……僕もところどころ、少なくとも貴族とか、身分の高い子なんじゃないかっていうのは思ってたよ。どことなく気品を感じる時があるからね」
「うっ」
「そうそう。グリングランの警備隊の姉ちゃんたちとはちょっと雰囲気違うし、あんま世間知らないみたいだし。まさかお姫様とは思わなかったけどよ」
「ううっ」
あ、あまり隠せていない……
薄々そんな気はしていたものの、それぞれから改めて言葉にされると少なからずショックを受けるエイミ。
そんな彼女に、ふたりはにっこりと笑顔を向けた。
「オレにとって、エイミはエイミだ。お姫様とか関係ねぇよ」
「真面目で一生懸命で心優しい、頼れる仲間だよ」
「み、皆さん……」
ぽろ、ぽろり。自然と溢れる涙はエイミの心まで熱くする。
「ありがとう、ございます……これからも“エイミ”と呼んでくれますか?」
震える声。少女の胸を満たすのは悲しみではなく、喜びで。
「おう! 改めてよろしくな、エイミ!」
「はい!」
仲間たちにあたたかく迎え入れられ、目の端に涙を滲ませながら微笑むエイミ。
彼女の後ろで、相棒の竜は顔を背けると『よかったわね』とそっと呟き、微かに身を震わせていた。