24:覚悟を決めて

 穢れによって暴走した火の精霊ルベインを鎮め、話を聞いていたところに現れた黒竜。
 女王の愛竜だという黒竜はエイミの必死の呼びかけにも振り向くことなく、ドラゴニカへと戻っていく。
 そこに、銀色の竜に乗ってやって来た竜騎士……フォンドとも顔見知りらしい彼女の名は、ブリーゼといった。
 ブリーゼによってあっさりと明かされてしまったエイミの本名……もはやエイミには、どれから触れればいいのかわからないような状況で。

「とりあえず、黒竜のことは今どうしようもないから置いておくとして……貴女はどうしてこんなところに?」

 モーアンの質問にブリーゼは「ああ」と頷いた。

「私は今は配達竜乗りをしているから、ほんの通りすがりでな。そこに見知った顔を見かけて来てみたんだが……どうも、取り込み中みたいだな?」
「配達竜! かっこいー!」

 猫のように丸くなって待機する銀竜にサニーが駆け寄り、あちこちから覗き込む。
 大量の荷物が入る鞄を体の両側に提げていた竜は、きらきらした純粋な眼差しを受けて長い尻尾を揺らし、溜息を吐いた。

「ブリーゼさん、すっげー強いんだぜ。オレ、まだ一度も勝てたことねえんだ」

 フォンドは負け続けていることなど気にもしていないように、からからと笑った。
 彼の中では負けた悔しさよりも、強者に挑み続けて成長の糧を見出す喜びの方が勝るのだろう。

「なるほどねぇ……」

 この中では比較的素人に近いモーアンの目から見ても、どこにも隙が見当たらない優れた武人といった佇まいのブリーゼ。
 その細腕に携える槍はエイミのものよりも大きく、無骨な見た目をしている。
 そんな彼女によく戦いを挑む気になるよなぁ……とある意味感心していたモーアンの視線が、ふいにブリーゼとかち合った。

「そういえば、ちらりと黒竜が見えたのだが、一体どういうことだ? あれはパメラの竜で、こんなところには来ないはずだが……」

 女王を呼び捨てなのか、とエイミ以外が顔を見合わせる。
 しかし今はそれよりも、遠くドラゴニカで起きた出来事を彼女に共有する方が先だろう。

「いろいろ……いろいろあったのです。少し長い話になりますが……」
「ああ。ドラゴニカでのことと、グリングランで起きたこと、両方話す必要がありそうだな」

 エイミとフォンドはそう言ってブリーゼに進み出る。
 突然やって来た魔族が壊した、ふたつの国の平穏――ふたりにとってあまりにも苦い記憶は、こうして語られるのであった。
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