プロローグ

 かつて、人間界と魔界が地続きであった時代、三つの勢力により人間界の平和が脅かされていた。

 それまで保たれてきた均衡を破り、魔物を従え侵略を進めた魔界の王子。

 同じ人間でありながら果てなき欲に溺れ、禁呪に手を出し不死となった魔法使い。

 人々の恐怖や憎しみ、疑念に絶望。それら負の感情を啜り、糧とする悪魔……

 内からも外からも現れた脅威に人々が疲弊した頃、人間界に一人の女性が現れた。
 きらめくエメラルドの長い髪。目元をヴェールで覆い、たおやかで神秘的な見目をしながら、彼女は強大な力をもって脅威と対峙し、封印するに至った。

 そして最後に、全ての力を使って人間界と魔界を切り離し、長い眠りについたとされている。

 女神の化身か、或いはそのものか……どちらであっても構わない。
 戦い疲れた人々は救世主である彼女に心から感謝し、女神と呼び、生まれ変わった大地にその名をつけた。


 今から約千年前。これが多くの人に愛され慕われる女神レレニティアの誕生と、女神の名を冠したこの世界の成り立ちの物語。

 後の世に『人魔封断』と呼ばれた大戦も、今は遠い遠い昔話である。

 平和が当たり前になった世界で、人々の記憶から薄れつつある、けれども誰もが知る物語。

 むかしむかしのおとぎ話……そのはずだった。
1/2ページ
スキ