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光が収まった時、ユーゴの世界は一変していた。
彼は本来、長剣よりも短剣の扱いが得意だったのだが、この剣は不思議なくらい手に馴染んで軽く、取り回し易い。
おまけに聖剣の加護なのか、持っているだけで全身に力がみなぎってくるのを感じる。
「すごい……」
聖剣、と言われるのも頷ける……まじまじと剣を見つめていると、磨き抜かれた刀身に、見知らぬ女性が映った。
「……ん?」
いや、よく見ると柄を握る手も白く華奢な別人のものではないか。声もなんか違う気がする。胸が重く、逆に足元は妙に風通しが良くなったような。
自らに起きた異変にうっすらと気づきつつも現実を直視したくないユーゴだったが……
『うむ。なかなかの美女になったではないか!』
「う、うわああああ!」
長く腰までのびて、ふわふわなのにサラツヤの誰もが羨む青藍の美髪。
顎を触れば髭もなく、きめ細かな白い肌は滑らかでぷるんとした触り心地に。
先程チラリと見えた刀身を鏡がわりに恐る恐る確認すると、タレ目気味ぐらいしか面影を残していない大きな目をぱちくりさせた、ユーゴより一回りくらい若い美女がそこにいた。
「どうして私がこんな姿に……」
がくりと膝をついてへたりこむと後ろにいくにつれて丈が長くなるヒラヒラのスカートが風圧でわずかに舞い上がる。
地味で薄汚れた旅人の服装は、華やかで装飾の多い、少々戦いにくそうな衣装へと変わっていた。
『そう絶望するな。その姿は我の加護。柄を手にしている時だけのものだ』
「な、なんのために!?」
『そりゃあ我だって握られるなら白く小さくやわらかい女子の手がいいに決まっているからだろうが!』
ユーゴは無言で聖剣を投げ捨てた。
『何をするか! 世界を救う勇者の剣だぞ!』
「どちらかというと呪いの魔剣だっ!」
聖剣の言葉通り、手が離れたことで元の姿に戻ったユーゴは身の危険を感じてか防御姿勢で喚く。
「まさかお前、先代の勇者もそうやって……」
『どういう訳か適合者は男しかいなかったからな』
「だが、いくら見た目を変えたところで中身は男だろう?」
それも三十後半の、髭を生やした……ついさっきまでの自分の姿と照らし合わせ、ユーゴの眉間におもいっきり皺が寄る。
『我も最初はそう思っていた。だが、ある日……』
「ある日……?」
『どうしても男の手の感触が好きになれなかったので我を手にした男を試しに女にしてやったら、驚くほど戸惑い、そして恥じらったのだ』
まあ、それはそうだろう。
そこに続く聖剣の言葉はこうだった。
『あっ、アリだな……と。元が男だっただけに、本来の女子にはない新鮮な反応が実に初心でむしろグッと』
「性癖に目覚めるな! もういい、私は帰るぞ!」
『我を放って行くつもりか? それこそ世界が滅ぶぞ。新たな魔王が現れたのだろう?』
そうそう都合良く次の適合者など現れんからなと剣は言い放つ。
聖剣を振るう資格を持ちながら、放棄するなどと……真面目で責任感の強いユーゴには刺さる言葉だ。
「くっ……わかった。とりあえず柄に触れないように布を巻いて、どこか近くの町で鞘を探そう」
『お、緊縛か? それならいっそ我を握り込みながらやってくれた方が』
「やかましい! 持ち帰ってやるだけ感謝しろ!」
ユーゴは手早く抜き身の聖剣を布で巻いて保護すると、紐で括って背負う形で持っていくことにした。
その過程でどうしても柄に触れる度に美女に変身してしまい、若干泣きそうになりながら。
彼は本来、長剣よりも短剣の扱いが得意だったのだが、この剣は不思議なくらい手に馴染んで軽く、取り回し易い。
おまけに聖剣の加護なのか、持っているだけで全身に力がみなぎってくるのを感じる。
「すごい……」
聖剣、と言われるのも頷ける……まじまじと剣を見つめていると、磨き抜かれた刀身に、見知らぬ女性が映った。
「……ん?」
いや、よく見ると柄を握る手も白く華奢な別人のものではないか。声もなんか違う気がする。胸が重く、逆に足元は妙に風通しが良くなったような。
自らに起きた異変にうっすらと気づきつつも現実を直視したくないユーゴだったが……
『うむ。なかなかの美女になったではないか!』
「う、うわああああ!」
長く腰までのびて、ふわふわなのにサラツヤの誰もが羨む青藍の美髪。
顎を触れば髭もなく、きめ細かな白い肌は滑らかでぷるんとした触り心地に。
先程チラリと見えた刀身を鏡がわりに恐る恐る確認すると、タレ目気味ぐらいしか面影を残していない大きな目をぱちくりさせた、ユーゴより一回りくらい若い美女がそこにいた。
「どうして私がこんな姿に……」
がくりと膝をついてへたりこむと後ろにいくにつれて丈が長くなるヒラヒラのスカートが風圧でわずかに舞い上がる。
地味で薄汚れた旅人の服装は、華やかで装飾の多い、少々戦いにくそうな衣装へと変わっていた。
『そう絶望するな。その姿は我の加護。柄を手にしている時だけのものだ』
「な、なんのために!?」
『そりゃあ我だって握られるなら白く小さくやわらかい女子の手がいいに決まっているからだろうが!』
ユーゴは無言で聖剣を投げ捨てた。
『何をするか! 世界を救う勇者の剣だぞ!』
「どちらかというと呪いの魔剣だっ!」
聖剣の言葉通り、手が離れたことで元の姿に戻ったユーゴは身の危険を感じてか防御姿勢で喚く。
「まさかお前、先代の勇者もそうやって……」
『どういう訳か適合者は男しかいなかったからな』
「だが、いくら見た目を変えたところで中身は男だろう?」
それも三十後半の、髭を生やした……ついさっきまでの自分の姿と照らし合わせ、ユーゴの眉間におもいっきり皺が寄る。
『我も最初はそう思っていた。だが、ある日……』
「ある日……?」
『どうしても男の手の感触が好きになれなかったので我を手にした男を試しに女にしてやったら、驚くほど戸惑い、そして恥じらったのだ』
まあ、それはそうだろう。
そこに続く聖剣の言葉はこうだった。
『あっ、アリだな……と。元が男だっただけに、本来の女子にはない新鮮な反応が実に初心でむしろグッと』
「性癖に目覚めるな! もういい、私は帰るぞ!」
『我を放って行くつもりか? それこそ世界が滅ぶぞ。新たな魔王が現れたのだろう?』
そうそう都合良く次の適合者など現れんからなと剣は言い放つ。
聖剣を振るう資格を持ちながら、放棄するなどと……真面目で責任感の強いユーゴには刺さる言葉だ。
「くっ……わかった。とりあえず柄に触れないように布を巻いて、どこか近くの町で鞘を探そう」
『お、緊縛か? それならいっそ我を握り込みながらやってくれた方が』
「やかましい! 持ち帰ってやるだけ感謝しろ!」
ユーゴは手早く抜き身の聖剣を布で巻いて保護すると、紐で括って背負う形で持っていくことにした。
その過程でどうしても柄に触れる度に美女に変身してしまい、若干泣きそうになりながら。