3
日が傾いた頃。迅速な騎士団の対応と、何よりどこからともなく降ってきた火球が大幅に魔物たちの戦力を削いだことで、フリーハーツの城下町は守られた。
混乱の最中に魔法を放った主は見つからなかったが……物陰から一部始終を見ていた旅人が舌打ちを漏らす。
「街を襲わせればユーノが出てくるかと思ったが……さすがは難攻不落の王都フリーハーツ。そう簡単にはいかないということだな」
下っ端の魔物で駄目ならば、もっと強い者が出れば良い。旅人……人間に化けた魔王アストルムはニヤリと白い牙が覗かせて笑う。
「青藍の君……いや、ユーノ。いつか必ず見つけだし、そしてこの手で……!」
などと言いながら出ていくと、頭ひとつぶん近く低い人影とぶつかりそうになる。
自分の妄想世界に入りかけていた旅人アスターはうおっと声をあげ、咄嗟に飛び退いた。
黄金の眼が鋭さを増し、魔王さながらの眼光でギロリと相手を睨みつける。
「貴様、ぶつかりそうになったではないか!」
しかし、目の前にいたのはアスターがよく知る相手で。
「って、ユーゴ! ユーゴか!?」
「アスター……」
彼が追うユーノと同じ青藍の髪の男、そして知り合ったばかりのアスターに親切にしてくれたユーゴだ。
途端にアスターの表情から怒りが消滅し、嬉しそうに目を輝かせる。
(魔王として魔物を指揮していたんだろうか……しかし、えらく懐かれてしまったな)
対するユーゴは複雑な心境で、自分に懐く大柄な男を見上げた。
「まさかここで会えるとは、奇遇というやつだな!」
「あ、ああ。そうだな」
本当は魔王の気配を感じた聖剣に案内されただけなのだが……純粋に喜ぶアスターを前に、ユーゴは苦笑いで誤魔化した。
『ほれ、早くたぶらかせ』
(人聞きの悪いことを言うな!)
背中から聴こえてくるあんまりな物言いに思わず声をあげそうになったところをどうにか内心に留め、咳払いをひとつ。
「えーと……ここは私の故郷でな。良ければこれから晩飯でもどうだ? 美味い店を知っているんだ」
「また美味いものが食えるのかっ!?」
ぴこんと、瞬時にアスターから犬の耳と尻尾が飛び出たような錯覚。
直後にぶんぶんと力いっぱい首を左右に振る動作まで含めて、改めて大型犬のようだとユーゴは思った。
「い、いや、ここで美味いものを知ったら王都が滅ぼせなく……」
「なんだ、食べないのか? じっくり煮込んで肉がトロトロのシチューなんか最高だぞ」
「とろとろ……」
ごくっ、じゅるり。本能に素直なリアクションについつい破顔してしまう。
「フ、決まりだな」
「えっ、あ、お、おう……」
これ以上断る隙を与えないように手を引いて、店へ向かう道を歩きだす。
『うむ、なかなかのたぶらかし力。その調子で魔王をどんどん骨抜きにしてしまえ!』
(だから人聞きの悪いことを言うなと……!)
ちくちくと罪悪感に胸をつつかれながら、ユーゴはアスターを振り返る。
疑いもせずついて来るこの大きな子供と、もし戦わずに済むのなら……
「ユーゴ?」
「ああ、いや……早く行こう、アスター」
やっぱり自分は、悪い奴かもしれない。
視線に気づいたアスターがきょとんとまばたきをしたので、もう一度笑いかけた。
混乱の最中に魔法を放った主は見つからなかったが……物陰から一部始終を見ていた旅人が舌打ちを漏らす。
「街を襲わせればユーノが出てくるかと思ったが……さすがは難攻不落の王都フリーハーツ。そう簡単にはいかないということだな」
下っ端の魔物で駄目ならば、もっと強い者が出れば良い。旅人……人間に化けた魔王アストルムはニヤリと白い牙が覗かせて笑う。
「青藍の君……いや、ユーノ。いつか必ず見つけだし、そしてこの手で……!」
などと言いながら出ていくと、頭ひとつぶん近く低い人影とぶつかりそうになる。
自分の妄想世界に入りかけていた旅人アスターはうおっと声をあげ、咄嗟に飛び退いた。
黄金の眼が鋭さを増し、魔王さながらの眼光でギロリと相手を睨みつける。
「貴様、ぶつかりそうになったではないか!」
しかし、目の前にいたのはアスターがよく知る相手で。
「って、ユーゴ! ユーゴか!?」
「アスター……」
彼が追うユーノと同じ青藍の髪の男、そして知り合ったばかりのアスターに親切にしてくれたユーゴだ。
途端にアスターの表情から怒りが消滅し、嬉しそうに目を輝かせる。
(魔王として魔物を指揮していたんだろうか……しかし、えらく懐かれてしまったな)
対するユーゴは複雑な心境で、自分に懐く大柄な男を見上げた。
「まさかここで会えるとは、奇遇というやつだな!」
「あ、ああ。そうだな」
本当は魔王の気配を感じた聖剣に案内されただけなのだが……純粋に喜ぶアスターを前に、ユーゴは苦笑いで誤魔化した。
『ほれ、早くたぶらかせ』
(人聞きの悪いことを言うな!)
背中から聴こえてくるあんまりな物言いに思わず声をあげそうになったところをどうにか内心に留め、咳払いをひとつ。
「えーと……ここは私の故郷でな。良ければこれから晩飯でもどうだ? 美味い店を知っているんだ」
「また美味いものが食えるのかっ!?」
ぴこんと、瞬時にアスターから犬の耳と尻尾が飛び出たような錯覚。
直後にぶんぶんと力いっぱい首を左右に振る動作まで含めて、改めて大型犬のようだとユーゴは思った。
「い、いや、ここで美味いものを知ったら王都が滅ぼせなく……」
「なんだ、食べないのか? じっくり煮込んで肉がトロトロのシチューなんか最高だぞ」
「とろとろ……」
ごくっ、じゅるり。本能に素直なリアクションについつい破顔してしまう。
「フ、決まりだな」
「えっ、あ、お、おう……」
これ以上断る隙を与えないように手を引いて、店へ向かう道を歩きだす。
『うむ、なかなかのたぶらかし力。その調子で魔王をどんどん骨抜きにしてしまえ!』
(だから人聞きの悪いことを言うなと……!)
ちくちくと罪悪感に胸をつつかれながら、ユーゴはアスターを振り返る。
疑いもせずついて来るこの大きな子供と、もし戦わずに済むのなら……
「ユーゴ?」
「ああ、いや……早く行こう、アスター」
やっぱり自分は、悪い奴かもしれない。
視線に気づいたアスターがきょとんとまばたきをしたので、もう一度笑いかけた。