街道を北上していくと、立派な城がぼんやりとその姿を現した。
 足元にはリット村がすっぽり収まってなお倍以上余る城下町が、ぐるりと壁に囲まれ守られている。

「王都フリーハーツ……帰ってきたな」

 そびえ立つ白亜の城をしみじみと見上げ、ユーゴは感慨深げに呟いた。

『帰ってきた?』
「ああ。私は聖剣がいた遺跡に偶然迷い込んだ訳ではない。あの場所に行くよう、王から命を受けて来たんだ」
『なんだと?』
「あそこに魔王を倒す鍵がある、と。それだけ聞かされてな。近づいたところで呼ばれるような感覚がして、あとはお前の知るところだ」

 あらかじめ場所を知らされていなければ、或いは極度の方向音痴でもなければ……リット村や街道から外れたそこに偶然迷い込むのは難しいだろう。

「あれじゃあ勇者に出逢えないのも無理はないな。もう少しこう、人が通りかかるような場所にいられなかったのか?」
『そう簡単に我に触れられたら困るわ。無骨な男の手で握られでもしたら反射的に我好みの美女に』
「……どのみち改めて人里離れた場所に捨てられそうだな、お前」

 触れた者を女体化させる剣なんてその辺にあっていいものじゃない。少し考えればわかることだったとユーゴは反省した。
 うっかり手にしてしまった者が呪いの剣だと怯えて処分しようとする光景が容易に浮かび、頬が引き攣る。

『一応、世界を救う最終兵器みたいなものなのだがな、我は……それで、王に報告しに戻ってきたという訳か?』
「ああそうだ。気が重いがな……」

 はぁ、と大きめの溜息が吐き出される。己を背負う背中が僅かに丸まるのを見て、ない首を傾げる聖剣。

『緊張するとかそういう風ではなさそうだな』
「あいつ相手に緊張なんかするものか。だが確実に面倒なのはわかる」
『……あいつ?』

 ユーゴは真面目な男だ。王からそんな命を受けるだけの信頼を得ていると言われても納得がいく。
 しかしそれにしても、気安い知り合いのような口ぶりではないか?

『ユーゴ、貴様は何者なのだ?』
「ああ、言ってなかったか。私はフリーハーツ聖騎士団の人間だ」

 質問の答えは返ってきたが、聖剣が知りたい内容とは少し違っていた。
 むしろ王に仕える騎士団の人間が王に対してあの物言いなのかと、さらに疑問が増えてしまう。

「とにかく、王都に入ったら静かにしているんだぞ。なにせ人が多いからな」
『基本的に我の声はユーゴにしか聴こえぬのだからユーゴがスルースキルを磨けば良いだけの話……』
「し・ず・か・に・していろよ?」
『ぬう』

 鋭く睨むユーゴに、聖剣は大人しく黙ることにした。
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