元祖勇者S物語

~そして伝説へ~

魔王「なるほど、勇者と呼ばれる生意気な人間が現れたと聞いたが……」
戦士「お前が魔王か……悪い事は言わない、抵抗はやめておとなしく諦めてくれないか?」
魔王「会うなりいきなり!? わ、私を見くびるなよ人間!」
勇者「戦士の言う通りだ。抵抗はやめろ、魔王」

 勇者は近くに倒れている魔物の頭を掴むと高く持ち上げ、その首筋に剣を突きつけた。

勇者「……じゃないと助かる命をみすみす失う事になるぞ?」
魔王「くっ、卑怯な……っ」

 魔王は武器を床に落とし、俯いた。

戦士「ってどっちが悪だよ! 俺はそういうつもりで言ったんじゃねぇぇぇぇ!!」
魔王「世界を救うため、手段は選ばんという事か……」
勇者「え、世界を救う? 俺別にそんなつもりでここに来たんじゃないぞ?」
魔王「……へ?」
戦士「じゃ、じゃあアレか? 魔王と手を組んで世界の半分を貰おうとかそういうヤツか!?」
勇者「世界なんか興味ないってば。貰うとしても総取りだし」
魔王「今サラッとすごい事言ったぞ……で、では何が目的だ!!」
勇者「そんなの決まってるよ。世界を侵略するなんていう生意気な魔王はどんな面で泣いてくれるのか確かめに来たんだ★」

 勇者の爽やかな笑み!

 魔王は凍りついた!!

戦士「お前……これ完全にこっちが悪者……」
魔法使い「魔王は悪だから勇者イコール正義なんだってば☆」
戦士「だからって何やってもいいって訳じゃねぇよ!」
魔王「あの……帰っていい? 魔界に帰っておとなしく暮らすからもう勘弁して下さい」
勇者「えぇー? つまんなーい」
戦士「もう許してやれよ!」


 こうして魔王の野望は打ち砕かれ、世界に平和が訪れた。

 勇者の冒険は伝説となり、世間には都合の良い部分だけが語り継がれていく事になる。

勇者「平和も退屈だなぁ」
魔法使い「また魔王でも来ないかしら?」
戦士(当分は来ないと思う……)

 勇者達に完全にトラウマを植え付けられた魔物達が再び暴れる事はなく、次に勇者の伝説が語られるのは数百年後……

 彼等の子孫が主人公となって、物語は紡がれるのであった。
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