ラスボスはつらいよ

「魔王様」
「ひえっびっくりした!」
「お久し振りの側近です」
「あ、ああ、うん。何か用?」
「私めには随分素っ気無いのですね。あの小娘には名前を呼ばせておいて……」
「セーラ姫のことか? というかお前たちが頑として魔王魔王と呼ぶからだろう!」
「魔王様には魔王の自覚をしていただきたく!」
「圧かけるのやめてくれる!?」
「……コホン。話がそれました。いえ随分あの小娘と親しくなられたと思いまして」
「お前が脱走させたからここに来たんだぞ?」
「勇者より強く血の気の多いあの娘なら魔王様の残虐で好戦的な一面を引き出せると思ったのですが」
「やっぱりそういう企みか! ないものは引き出せな……え、やっぱ勇者より強いの?」
「スイーツを食べ過ぎたら太ってしまうからと運動をしていたらああなったそうです」
「つまりダイエットの結果、拳ひとつで魔王城を蹂躙できる武闘派プリンセスが誕生したと」
「恐ろしい娘ですね」
「彼女が問答無用で襲ってきたらワシ、無事かどうか怪しいもん」
「話の通じる獣でしたか」
「どっちかというと戦闘民族的なモノを感じたぞ」
「しかし魔王様……一度は命を狙ってきた相手を客室に泊めるなど、甘くありませんか?」
「帰らないって言うから……」
「それに一緒に人間界のスイーツを食べにいく約束もしてしまったから?」
「ぎくっ!」
「バレバレですよ魔王様。そして人間と馴れ合いすぎです!」
「やだ! スイーツ食べるのっ! ていうかワシはそもそも人間と敵対するつもりはないぞ!」
「スイーツスイーツって……そこまでおっしゃるならこの私めが極上のスイーツをご馳走しましょう」
「えっ、なになに?」
「人間どもの恐怖の悲鳴と絶望の断末魔……甘美なるその調べはまさしくスイーツ……」
「そういう血なまぐさいのはスイーツって言わない!」
「ああ言えばこう言う……」
「それワシが言われる側か?」
「すっかりあの小娘に惑わされて……あの泥棒猫め……」
「なら一緒に行く?」
「はい?」
「人間界スイーツ食べ歩きツアー。人間界のうまいもん食ったら人間に対する敵意もなくなるだろ」
「魔王様……今わかりました」
「ん?」
「そういう思わせぶりなあれであの小娘も私のこともたぶらかされたのですね……!」
「人聞き悪すぎない!?」
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