ハーレム粉砕☆勇者様っ!
宿屋ではしっかり女性陣と別室で、念のため施錠も確認して……
ピュアリア姫と魔王の娘レーシィだけだったらここまで警戒しなかったかもしれない。
けれども新たに加わったピュアリアの護衛、ルルリエは大人のお姉さんだからか、なんとなく他のふたりよりいろいろ気をつけなきゃ危ない気がした。
……ほんと、いらん能力つけてくれたよな、女神様とやら。
「シャラクさん、おはようございます」
「遅いぞシャラク!」
「あら、勇者様はねぼすけさんねぇ」
誰のせいで微妙に眠れなかったと思ってんだ、特に最後のお前!
夜中に俺の部屋のドアが一回ガチャガチャ音を立てたの知ってるんだからな!?
無理矢理開けようとした上に舌打ちしていったの、めちゃめちゃ怖かったんだからな!
「それでは今度こそお城に戻りましょう、シャラクさん」
「あー……そうだな」
「お父様に紹介……!」
「勇者として、だからな?」
ほんとは勇者なんて引き受けたくもないけど!
どうにかして戦いを避けて平和を取り戻し元の世界に帰るためには、王様の協力が必要だろう。
見知らぬ世界で動くなら、後ろ盾は強力なほうがいい。
不安は伴うけれども、昨夜しばらく考えてそれが今見えている最善の道だろうと思い至った。
「シャラク、待て」
と、突然そう言ってきたのはレーシィ。
「どうした、レーシィ?」
「誰かがこちらを見ているぞ」
紅の目を鋭く細め、光らせる……その先は、宿屋の陰だ。
ややあって、隠れていても無駄かと両手を軽くあげて一人の青年が現れた。
「お嬢ちゃん、すごいなァ。気配消してたのに」
「ふん、当然だ。われは鈍感なニンゲンとは違……」
「きゃーっ! こ、この子はちょっと勘が鋭いんです!」
公共の場で人間と違う魔族アピールするんじゃありません!
ピュアリアが素早くフォローを入れてくれたお陰で、青年は「ふぅん」と首を傾げただけで本題に移った。
「まァいいや。オレぁウォルド。しがない旅の傭兵でさァ」
「はあ」
ウォルドと名乗った青年はゲームやアニメとかでいうなら『ノリの軽い二番手』とかそういう雰囲気の男だ。
動きやすそうなラフな格好に橙色のゆるいタレ目、バンダナを巻いた緑色の癖毛……髪も目もこんなカラフルなのに、黒だけ珍しいっていうのもなんか妙な感覚だなと思いながら「そのしがない旅の傭兵が何の用だ?」と訪ねた。
「単刀直入に言いやす。勇者様御一行にオレも加えちゃくれやせんかねェ」
「……あんた、もしかして昨日宿屋に……」
「へへ、ちょいと話聞かしてもらいやした」
茶目っ気たっぷりにウインクしてみせるウォルドに、まず突っかかったのはルルリエ。
「見ず知らずの、それも盗み聞きなんてするような男をいきなり信用すると思うかしら?」
もっともな指摘を突きつける彼女は冷静で、本来は優秀な護衛役なのだろう。
そう……“ハーレム”さえ絡まなければ。
「あちゃ、痛いところを……けど、魔王のいる魔界に乗り込むのに戦力は多い方がいいと思いやせんか?」
「俺、戦うつもりはないんだけど……」
「戦いを避けるのだって戦力は必要っしょ。弱かったら身を守れやせんぜ」
ぐう、言われてみればごもっとも。
「つまりあなたは勇者様が安全に逃げるための肉の壁になってくれるのかしら?」
「容赦ねぇな!」
「フッ……時にはシビアにならないと、世界なんて救えなくてよ……」
カッコよくキメて言ってるけどようは真っ先に囮にするぞ宣言だよなそれ。
まあそこまで言われたらウォルドだって引き下がってくれるか……いや、待てよ?
「俺、やっぱりお前が必要かもしれない……」
「へ?」
魔物より何より、真っ先に身を守らなきゃいけない相手がいた。
女神に押し付けられた“ハーレム”のせいで、俺以外みんな女子という今のメンバーで行動をするのはある意味魔物と戦うより危険がいっぱいだ。
「ウォルド!」
「は、はい?」
「今の俺はモテてモテて大変なんだ!」
「なんですかそりゃ自慢かコノヤロー!?」
しまった、ちょっと語弊があったか……いや、ないけど。
「シャラクさんはこの世界に召喚した時に女神様からハーレムという特性を付与されてしまったそうなんです」
「すごいぞ! ピュアリアもわれもみんなハジメテを奪われてしまったからな!」
「ななっ……!?」
あっちょっ違、そんな目で見ないで!
「は……初恋、って意味です」
「あっ、そっか、びっくりした……つまりみんながみんな勇者様に惚れちまうと? なんて羨ましい……!」
そんなこと言うなら一回同じ目に遭ってみるかコノヤロー。
「……まあ、そういう訳だから、同じ男がいるとちょっと安心かなーなんて」
「まさかそっち方面でのボディガード頼まれるとは思いやせんでしたが……まあいっか」
俺だってそんなの頼む羽目になるとは思わなかったよ……
兎にも角にも、
「これでオレも勇者パーティーの一員としてモテモテ出世間違いなし!」
「下心まみれでいっそ清々しいわね……」
ちょっと怪しいような、素直にぶっちゃけすぎてそうでもないような傭兵、ウォルドが仲間に加わった。
「俺はシャラク。よろしくな、ウォルド」
「!」
俺は笑顔でウォルドに握手を求め……あ、そういやこの世界に来て初めて笑ったかもしれない。
それだけとんでもないこと続きだったもんな、とどこか他人事のように考えていると、
「……よ、ろしく、おねがいしまさァ……」
「?」
挨拶に握手って、もしかしてこの世界じゃ変なのか?
目をそらし、戸惑ったように声が小さくなるウォルドに、俺は首を傾げた。
ピュアリア姫と魔王の娘レーシィだけだったらここまで警戒しなかったかもしれない。
けれども新たに加わったピュアリアの護衛、ルルリエは大人のお姉さんだからか、なんとなく他のふたりよりいろいろ気をつけなきゃ危ない気がした。
……ほんと、いらん能力つけてくれたよな、女神様とやら。
「シャラクさん、おはようございます」
「遅いぞシャラク!」
「あら、勇者様はねぼすけさんねぇ」
誰のせいで微妙に眠れなかったと思ってんだ、特に最後のお前!
夜中に俺の部屋のドアが一回ガチャガチャ音を立てたの知ってるんだからな!?
無理矢理開けようとした上に舌打ちしていったの、めちゃめちゃ怖かったんだからな!
「それでは今度こそお城に戻りましょう、シャラクさん」
「あー……そうだな」
「お父様に紹介……!」
「勇者として、だからな?」
ほんとは勇者なんて引き受けたくもないけど!
どうにかして戦いを避けて平和を取り戻し元の世界に帰るためには、王様の協力が必要だろう。
見知らぬ世界で動くなら、後ろ盾は強力なほうがいい。
不安は伴うけれども、昨夜しばらく考えてそれが今見えている最善の道だろうと思い至った。
「シャラク、待て」
と、突然そう言ってきたのはレーシィ。
「どうした、レーシィ?」
「誰かがこちらを見ているぞ」
紅の目を鋭く細め、光らせる……その先は、宿屋の陰だ。
ややあって、隠れていても無駄かと両手を軽くあげて一人の青年が現れた。
「お嬢ちゃん、すごいなァ。気配消してたのに」
「ふん、当然だ。われは鈍感なニンゲンとは違……」
「きゃーっ! こ、この子はちょっと勘が鋭いんです!」
公共の場で人間と違う魔族アピールするんじゃありません!
ピュアリアが素早くフォローを入れてくれたお陰で、青年は「ふぅん」と首を傾げただけで本題に移った。
「まァいいや。オレぁウォルド。しがない旅の傭兵でさァ」
「はあ」
ウォルドと名乗った青年はゲームやアニメとかでいうなら『ノリの軽い二番手』とかそういう雰囲気の男だ。
動きやすそうなラフな格好に橙色のゆるいタレ目、バンダナを巻いた緑色の癖毛……髪も目もこんなカラフルなのに、黒だけ珍しいっていうのもなんか妙な感覚だなと思いながら「そのしがない旅の傭兵が何の用だ?」と訪ねた。
「単刀直入に言いやす。勇者様御一行にオレも加えちゃくれやせんかねェ」
「……あんた、もしかして昨日宿屋に……」
「へへ、ちょいと話聞かしてもらいやした」
茶目っ気たっぷりにウインクしてみせるウォルドに、まず突っかかったのはルルリエ。
「見ず知らずの、それも盗み聞きなんてするような男をいきなり信用すると思うかしら?」
もっともな指摘を突きつける彼女は冷静で、本来は優秀な護衛役なのだろう。
そう……“ハーレム”さえ絡まなければ。
「あちゃ、痛いところを……けど、魔王のいる魔界に乗り込むのに戦力は多い方がいいと思いやせんか?」
「俺、戦うつもりはないんだけど……」
「戦いを避けるのだって戦力は必要っしょ。弱かったら身を守れやせんぜ」
ぐう、言われてみればごもっとも。
「つまりあなたは勇者様が安全に逃げるための肉の壁になってくれるのかしら?」
「容赦ねぇな!」
「フッ……時にはシビアにならないと、世界なんて救えなくてよ……」
カッコよくキメて言ってるけどようは真っ先に囮にするぞ宣言だよなそれ。
まあそこまで言われたらウォルドだって引き下がってくれるか……いや、待てよ?
「俺、やっぱりお前が必要かもしれない……」
「へ?」
魔物より何より、真っ先に身を守らなきゃいけない相手がいた。
女神に押し付けられた“ハーレム”のせいで、俺以外みんな女子という今のメンバーで行動をするのはある意味魔物と戦うより危険がいっぱいだ。
「ウォルド!」
「は、はい?」
「今の俺はモテてモテて大変なんだ!」
「なんですかそりゃ自慢かコノヤロー!?」
しまった、ちょっと語弊があったか……いや、ないけど。
「シャラクさんはこの世界に召喚した時に女神様からハーレムという特性を付与されてしまったそうなんです」
「すごいぞ! ピュアリアもわれもみんなハジメテを奪われてしまったからな!」
「ななっ……!?」
あっちょっ違、そんな目で見ないで!
「は……初恋、って意味です」
「あっ、そっか、びっくりした……つまりみんながみんな勇者様に惚れちまうと? なんて羨ましい……!」
そんなこと言うなら一回同じ目に遭ってみるかコノヤロー。
「……まあ、そういう訳だから、同じ男がいるとちょっと安心かなーなんて」
「まさかそっち方面でのボディガード頼まれるとは思いやせんでしたが……まあいっか」
俺だってそんなの頼む羽目になるとは思わなかったよ……
兎にも角にも、
「これでオレも勇者パーティーの一員としてモテモテ出世間違いなし!」
「下心まみれでいっそ清々しいわね……」
ちょっと怪しいような、素直にぶっちゃけすぎてそうでもないような傭兵、ウォルドが仲間に加わった。
「俺はシャラク。よろしくな、ウォルド」
「!」
俺は笑顔でウォルドに握手を求め……あ、そういやこの世界に来て初めて笑ったかもしれない。
それだけとんでもないこと続きだったもんな、とどこか他人事のように考えていると、
「……よ、ろしく、おねがいしまさァ……」
「?」
挨拶に握手って、もしかしてこの世界じゃ変なのか?
目をそらし、戸惑ったように声が小さくなるウォルドに、俺は首を傾げた。