~英雄を知る者~

 魔物に取り憑かれた少年、ワッフルの操る土人形による襲撃から一夜明けたパスティヤージュでは、朝から地響きのような物音がしていた。
 立て続けにいろいろなことがあって疲れが溜まっていたデュー達がいつもよりは遅めに支度を終えて外に出ると、今まさに様子を見に行こうと思っていたワッフルが土人形を動かして、昨夜自ら破壊した瓦礫を持ち上げている光景が視界に飛び込んできた。

「くそっ、ボクがなんでこんなこと……さっさと終わらせるんだ、ゴーレム!」
「ワッフル君……?」

 ぶつくさ文句を言いながらゴーレムに命令していたワッフルはフィノに気付くと「あっ、まな板女!」とご挨拶に指を差す。

「もしかして、自分で壊したものの修復を……」
「お前の母親、散らかしたらきちんと片付けましょうねー、なんてにこにこ笑って言いやがったんだよ。ボクのこともゴーレムのことも気味悪がらないし怖がらない、どうかしてる!」

 調子を狂わされて苛立つワッフルが乗る土人形に歩み寄ると、フィノは乾いた土の肌をそっと撫でた。

「ゴーレムさん、力持ちだもんね。ちゃんとワッフル君の言うことを聞くし、いい子ね♪」
「なっ……」

 自分にもゴーレムにも、そんな向日葵のような笑顔を向けられたことがなかったワッフルは、あまりの眩しさと愛らしさに一気に耳まで赤くなる。

「なに触ってんだよ危な……っ邪魔だろ! 離れろまな板女!」
「わ、わたしにはフィノって名前があるの!」

 そんな、微笑ましくもくすぐったくなるような二人の空間を遠目に眺めていた他の仲間達は、初めて見るワッフルの年頃の少年らしい一面に少し安堵する思いだった。

「いやぁ、青春ですねぇ……がんばれーちびっこー」
「それにしても、彼がああまで暴走してしまったのはやはり、気味悪がられた、という体験から生まれた闇が魔物と同調したからなんだろうか」

 ワッフルの能力は他にはない特殊なものだし、魔物を連れているとなると、恐れた人間に拒絶されたというのも想像に難くない。
 彼がひねくれてしまったのも、そういった経緯で孤独になったがゆえなのかもしれない。

「あの子、住んでた村を追い出され帰るところもなくセルクル遺跡に住み着いて、旅人を襲って食糧を奪って、それでどうにか食い繋いでいたらしいわ」
「レファイナさん」

 おもむろに背後から現れたレファイナの視線も、ワッフルとフィノの方へ。

「だからパスティヤージュで受け入れようと思うの。里の修復はほとんど建前」
「受け入れられるなら、それが良いのだろうな。今帰せばまた同じことを繰り返すかもしれぬ」

 帰る家がなく自活する以上略奪を繰り返さざるを得ない。
 そうして独りでいてまた魔物につけこまれる可能性もないとは言えないし、理由があった方が彼も留まりやすいだろう。

「ここの人達は力仕事あまり得意じゃないし……うふふ、いいお手伝い君が来てくれたわ♪」
「うむ、ワッフルも襲った場所が悪かったのう」

 ワッフルの心情がどうであれ、しばらくはパスティヤージュを離れることはできなさそうだ。
 石柱を持ち上げるゴーレムを見ながら、リュナンが密かに、ガトーにこき使われた数ヵ月間を思い出したとかなんとか。
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