~聖域の決戦~

 アラカルティアを護り続けている結界の元は、聖依獣の隠れ里の奥地に存在していた。
 巨大モップもとい長老が何やら唱えると長くのびた光の道が出現し、その在処をデュー達に示す。

「こっちじゃよ」

 聖依獣の長老ムースは存外軽やかな動きでそれに飛び乗ったかと思えば、巨体には目に見えて狭いであろう道幅をものともせずすいすいと進んでいく。
「なんで通れるんですか」とリュナンが率直な疑問を投げ掛けると「目に見えるものが総てではないとゆーことじゃよ」とウインク(したかどうか定かではないが)がかえってきた。

 そうして辿り着いた聖地は、可視化するほどのマナの輝きで鮮やかな緑色がかった光に満ちていて、神秘的な空間が広がっていた。

「ようこそ、みなさん」

 何かを隔てたような、透き通った声に一行が顔を上げるとどこまでも続く広大な光の壁の中に一人、聖依獣の女性が両手を胸の前で組む祈りの姿勢のまま浮かんでいた。

 通常、結界というものはマナ同様殆ど目に見えない。
 或いは魔物や攻撃など、侵そうとするものを防いだ時にその形を知ることが出来る場合もあるが、ここでの結界は最初からはっきりと、誰の目からもその存在が感じられた。
 それがそのまま力の強さをあらわしているのかはデュー達にはわからないが、そうだとしたら相当のものだろう。

 己が自由を犠牲にそれを生み出しているのが、目の前の、少女の年頃を少し過ぎたくらいの女性。
 既に実体をもたないという話だが、姿は見え声も聴くことも出来るとなると、その身に触れることがかなわないのが奇妙な感覚だ。

「あなたが、カミベルさんですか?」
「ええ」

 結界の光とマナの光に照らされた彼女……王が焦がれた巫女カミベルは、フィノに問いかけられると花緑青の目を細めて一行に微笑んだ。
 モラセス王と彼女の悲恋は五十年近くも昔の話だというのに、歳月など感じさせない美しさで。

「美人だ……」

 思わず見惚れ、そう溢したのはデュー。

「デュー、なに鼻の下のばしとるんじゃ」
「いいと思ったら素直に口に出すのがオレのモットーなんだよ」

 こんなことをさらっと言い放つ少年に、仲間たちは引くなり笑うなり、それぞれの反応を見せるのだった。
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