~孤独抱えしもの~

 王と聖依獣の巫女の想い出の場所である聖霊の森から傷ついた騎士、スタードを連れてシブーストに戻ったミレニア達は村の孤児院を訪れた。

「あらまあミレニア、どうしたの?」

 対応に現れた院長の女性に花畑で起きた事件や王のことはふせ、森で魔物に襲われて怪我をしたことにして、スタードをしばらくの間ここで休ませて欲しいと伝える。
 ちょうど職員用のベッドに空きがあったため、院長は「そういうことなら」とすんなり申し出を受け入れたのだが、今度はスタードが首を左右に振った。

「私には休んでいる暇はないし、ここで世話になる訳には……」
「勘違いするんじゃないぞ、スタード」

 彼の言葉を遮り、ミレニアがにやりと笑う。
 少女の視線はそこらじゅうを元気に駆け回る子供達に配られた。

「休むだけなら宿で充分じゃろうが、万が一また王を追って行くかもしれんからのう……院長はもちろんここの子供達みんな、そして村人全員がおぬしの見張りじゃ」
「なっ……」

 辺境の小さな村にスタードのような騎士は珍しく、あっという間に噂が広まっているだろう。
 この院内でも先程から代わる代わる好奇に満ちた小さな眼が彼の様子を窺っていた。
 絶句するスタードに、オグマが静かに水浅葱の瞳を向ける。

「今の団長……いえ、スタード殿は誰が見ても危ういです。そもそも一人でモラセス王を追うなんて無茶をした時点で、日頃冷静なスタード殿らしくない」
「王様の行方はオレ達が追うから、ゆっくり休んでろよ、オッサン」

 デューがそう続くと観念したのか、騎士は困り顔で髪と同じ淡黄の顎髭を撫でた。

「わかったわかった……まったく、内気なオグマはいつの間にか強くなってるし、そこの少年は妙に以前いた騎士の若僧を思い出すな」
「ぎく」
「確か名前はデュランダル……君のように、生意気そうな面をした男だ」

 妙に含みをもった発言に思わず目をそらすが、それは自らの墓穴を掘る行為でもあった。
 だがスタードはそれ以上の追及はせず、デュー達ひとりひとりの顔を見つめる。

「……こうまでされては大人しく言うことを聞くしかないが、代わりにひとつ年寄りの長話を聞いてはくれないか?」
「長話……ですか?」

 真剣な藍鼠と視線がかち合い、フィノがきょとんと小首を傾げる。
 孤児院のどこかで、また元気な足音が駆け抜けた。
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