~決別~

 緩やかな時が流れる田舎のシブースト。
 この村をデュー達が訪れるのは何度目になるだろうか、しかし今回ばかりはのんびり羽休めともいかないようだ。

「あ、ミレニアお姉ちゃんにうさぎさん!」
「ほんとだ!」

 愛らしく利発そうな少女とよく似た顔立ちの元気の良い少年……双子のきょうだい、シナモンとカネルがミレニア達を見るなり大きな目を輝かせて駆け寄って来る。
 久方ぶりに聞いたうさぎさん、という呼び声にシュクルは思わずそっぽを向いた。

「だからうさぎではないと……」
「なー、さっき偉そうな騎士のおじさんが来たんだけどお姉ちゃん達の知り合い?」
「ひとの話を聞かっ……騎士だと?」

 主張を遮ったカネルの言葉に眉間の皺を深くするシュクルだったが、のどかな村に些か不釣り合いに聞こえる単語がデュー達の関心を引いた。

「おじさん、ってことはトランシュさんじゃあなさそうですね」
「このくらいの年頃にしてみればアイツもおじさん呼ばわりかもしれないぞ?」

 少年の見た目だが色男……王都騎士団の若き騎士トランシュと同い年であるデューの発言はそのまま己に返ってくることになる。
 一方で最年長のオグマが「おじさんか……」と小声で零し、複雑な顔をした。

「そ、それより、その騎士はどんな人で今どこにいるんだ?」
「長いきんぱつに白いふくの、オグマお兄ちゃんみたいにかたっぽの目をかくしたおじさん! 村のみんなに森について聞いて回って、そのまま行っちゃったよ」

 シナモンが語る人物像に首を傾げるオグマだったが、ここで王都の関係者と聖霊の森が出てくるのは、偶然にしてはタイミングが良すぎると感じるのは深読みし過ぎだろうか。

「金髪……いや、しかしあの人は……」
「心当たりなくはないけど……行ってみりゃわかるだろ」

 と、森へ向かおうとしたデュー達に双子がおずおずと無垢な瞳を向けた。

「ミレニアお姉ちゃん達、また行っちゃうの?」
「もっといっぱいおしゃべりしようよ、あそぼうよ」

 遊びたい盛りの幼子達にしてみれば、姉のように慕うミレニアが仲間達と共にシブーストを離れて以来、なかなか会えなくて寂しいのだろう。

……ただ、それだけにしては二人の表情が暗く不安げに見えるが。

「すまないのう、カネル、シナモン」

 ミレニアは慈しむように優しく微笑みかけると、二人の頭をくしゃりと撫でる。
 わがままを言って怒らせてしまったと勘違いしたのか、びく、と小さな肩が跳ねた。

「……お姉ちゃん達はまたここに帰ってくるために行くのじゃ。また、おぬしらと楽しく遊ぶためにのう」

 だから、今は行かなければならない。

 頭ごなしでなく静かな声音で言い聞かせる彼女は、まさしく村の子供達の“お姉ちゃん”なのであった。
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