~デュー~

――絢爛豪華な城で、玉座の王にかしずく騎士。

 ああ、覚えがある。

『よいか、必ず聖依獣を見つけ出せ。そして、奴等がひた隠しにしている住み処を……暴き出せ』

 取り憑かれたとも、この場の何も見ていないとも思える虚ろな紅眼。
 その時はただ俯いて、そんな王の言葉を聞き入れるだけだった騎士。

『……仰せのままに』

 抑えた声音で一言そう返すと立ち上がり、玉座の間を後にする。

 やがて彼が訪れたのは、中央大陸の端にある田舎村から北へ少し行った山。

 切り立った崖、人を寄せつけぬ自然の城塞。

 騎士は一人歩く。


 そして…―――


「……あの時夢に出てきた騎士は、オレ自身だったのか」

 ようやく腑に落ちたデューが独りごちる。
 ミレニアと出会った時に子供呼ばわりされ、鏡で見た己の姿に違和感をおぼえたのはなにも記憶をなくしていたせいだけではなかった。

(なんてこった……こんなことがあるのかよ? そりゃあ手懸かりも見付からない訳だ)

 夢の中の騎士は今のデューより、いや心配そうにこちらを窺っている仲間たちの何人かより長身で歳も上で、それが意味していることは……

「オレをこんな姿に“変えた”のはあんたか?」

 どよめく仲間を気にもとめず、少年は己を見下ろす影を睨みつけた。

「静かな山で狼藉を働く無粋な騎士に、ほんの仕置きをしたまでです」

 やがて姿を見せたのは、優美でしなやかな聖依獣。
 氷晶の迷宮にいたものと違い、見た目や声はどこか女性的なようだった。

「待つのじゃデュー、話が見えんぞ」
「そ、そうだ! 姿を変えられただのなんだの、それではまるで……!」

 自分達を置いてさっさと話を進めていくデューに、ミレニアとシュクルが食い下がる。

「まるで、というかそうなんだよ……オレは子供じゃないって何度も言ったけど、実はそのまんまの意味だったらしい……そこで偉そうに見下ろす聖依獣様に子供の姿に変えられ記憶も消された王都騎士団所属の騎士、それがオレだ」

 自嘲気味に笑うデューと驚きに言葉を失う仲間たちを隔てるように、山の風が吹き抜けた。
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