~若き力~

 心なしか雪の勢いが弱まったように感じられる、霊峰アラザンにて。
 ラクレムが起こした雪崩が山肌を流れ去った後、山道はところどころ形を変えていた。

「ねぇ、あんな所に入口なんてあったかしら?」
「ここから内部に入れるようだな……」

 イシェルナが、雪崩の前にはなかった入口を見付ける。
 中を覗き込んでみると、中央部は空洞になっていて、下へと進む道が長く伸びているのがわかる。
 氷のマナの濃度が高いのだろうか、あちらこちらに氷が花と生え、空気中でもところどころ目視出来るほどに集まって、キラキラと光を反射していた。

―氷晶の迷宮―

 一行は現世と隔離されたような美しくもぞくりとする光景に一瞬言葉を飲み込むが、すぐに自らの使命を思い出す。

 ……否、無理矢理にでも思い出させられた。

「げっ、あれは……」

 佳麗な風景の中で妙に浮いた、どす黒く醜悪な姿の魔物が数匹、本来この地に住まう生物に混じって這い回っている。
 すると気配に気付いたのか、どこを見ているのかわからない目をつけた顔がぐるりとデュー達に向けられ、不規則な動きでこちらに迫ってきた。

「あーん、やっぱ生理的に無理ぃ!」
「コイツらがいるってことはマナスポットは……急いだ方が良さそうだな」

 何度遭遇して慣れようがどうしても受け付けないのであろう、あからさまな拒絶反応を見せるイシェルナの一歩前に進み出たデューは、手にした大剣をしっかりと握り直し、姿勢を低く構える。

「手懸かりを前に……こんなところで手間取ってる暇はないんだよ!」

 藍鉄の瞳はその剣の如く研ぎ澄まされ、鋭さを増す。
 金属の奏でる甲高い音が、霊峰の内部に響き渡った。
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