~混沌の王城~

 穏やかでありながら、どことなく積み重ねた歴史の重みを感じる厳かな城下町。
 そのいつもと変わらない静かな空気の中で、忙しなく懸命に羽を動かす小さな鳥が一羽、デュー達めがけて飛んできた。

「お前は確かカッセの……クズキリ、って名前だったか」
「なになに、どうしたの?」

 デューの手のひらになかば落ちるように飛来した連絡役の鳥は手紙もつけておらず、ただならぬ様子にもかかわらず肝心の伝える手段をもっていなかった。

「困ったのう、何か必死に訴えとるようじゃが……」

 だが、唯一。

「なに、カッセが!? それで逃げてきたと?」

 人語を扱えないクズキリの言葉に頷き、驚き、そしてどうやら会話を成立させているらしいシュクルに仲間達の視線が集まった。

「……シュクル、わかるのか?」
「貴様らにはわからぬのか?」
「ちゅんちゅんぴーちく聞こえるだけじゃよ。すまんが翻訳してくれ」

 わかった、と返すとシュクルはクズキリの代弁として話し始めた。

 里からの命に従い、城への潜入を果たしたカッセは王の間までは難なく忍び込めたものの、そこで見つかって捕らえられてしまった。

 王は不思議な力を操り、人のものとは思えない気配を纏っていた、と。

「モラセス王……」
「オグマは会ったことあるのか?」
「ガトー殿が王室のお抱え職人だった頃に、何度か仕事場を覗きに来ていたな……その時は、おかしな事はなかったと思うが、たぶん」

 記憶を手繰り寄せているにしても歯切れの悪いオグマに「たぶん?」と声を洩らすイシェルナ。

「昔過ぎて覚えていないってことかしらん?」
「い、いや、恥ずかしい話なんだが……当時の私はいろいろな意味でいっぱいいっぱいで、おまけに国王直々に現れるとは思わなくて……」
「あらあら、固くなってたのね?」

 可愛い、と美女につつかれて赤面する元騎士を密かに羨むリュナンだったが、それどころではない。

「……カッセが危ない。オレ達も城に向かおう」
「ですね。急ぎましょう!」

 王都の空を覆うのが微かに見える、うっすらとした壁・結界を仰げば自然と視界に入るマーブラム城。

 頭上には、これから起こることなど微塵も思わせない、嘘のように澄み渡った青が広がっていた。
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