~涸れ井戸と人の心~

 ゴーレム使いの少年を退けたデュー達はセルクル遺跡の奥にひっそりと存在していたマナを湛える泉の調査を終えると、長居は無用と引き返し、遺跡を発った。

「何も異常なさそうで良かったな」
「ひとまずは、といったところだが……この近くにはもうひとつ、小さなマナスポットがある」

 オグマは右手を使う代わりに風を操って地図を広げ、左手で仲間たちに道を示す。
 オアシス、セルクル遺跡からカソナード砂海側とは反対にしばらく進むと村があるようだ。

「カレンズ村……涸れかけたマナスポットに寄り添うように作られた、小さな村ね」
「…………そこに行くなら、シュクルは外で待っていた方がいい」

 沈んだ声音で発せられたカッセの言葉は、仲間の注目を集めた。
 何よりシュクルが、訳がわからず困惑をあらわにしている。

「それは、いったい何故だ?」
「カレンズ村では聖依獣は災いをもたらすものと伝えられている。わざわざ村人を怯えさせることも、つらい思いをする必要もござらん」

 カッセの正体を知るデューとオグマには、それが重い実感を含んでいるように思えた。
 強い力をもつ異質な存在を英雄と呼ぶ者もいれば、畏怖の対象や災いの元凶という場合もある、というだけの話だ。

 それはなにも聖依獣に限ったものではなく、人間同士でも。

「……確かに、現実を見ず避けて通ることは出来たかもしれぬな、昔の余なら」

 小さな四肢を震わせ、シュクルが静かに口を開いた。

「だが、知る必要があると……思う。それに、村の中にマナスポットがあるなら、万が一の事があれば聖依術で浄化するのは余の役目であろう」
「シュクル……」
「さ、幸いなことに余は喋らなければただのうさぎに見えるらしいしな! 何も異常がなければ黙ってじっとしていれば良い!」

 普段言われれば反発して全力で否定するようなことすら今は利用して、食らいつこうとする聖依獣にカッセは赤銅色の猫目を細める。

(まだ子供だと思っていたが……余計なお世話だったか)

 ふ、と覆面の下で小さく微笑み、シュクルの頭をそっと撫でた。

「……わかった。くれぐれも正体を知られないよう、おとなしくしていれば大丈夫だろう」
「カッセ……」
「ただし!」

 一転して語気を強めるカッセにびくりと小動物が跳ねる。

「聖依獣であることが村人に知られてしまえば、下手をすれば危険にさらされかねない。その時は己の身を守り、すぐに退散すること」
「わ、わかった……」

 よし、と返すカッセがさながら弟を心配する兄のようだったとミレニアは密かに思ったとか。
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