終章・~そして、彼らは~
――自らつくりあげたツギハギの塔で隕石を呼び寄せ世界を滅ぼそうとした“総てに餓えし者”を打ち倒した日から、三ヶ月が過ぎた。
空からすっかり隕石は消え、一度は混乱に包まれた世界も次第に落ち着きを取り戻し、元の穏やかな日常へと戻ろうとしている。
「魔物に襲われた街も復興が進み、眷属の残党はガトーの作った腕輪がある程度普及することで騎士団や傭兵でも対処できるようになった……本当に、皆よくやってくれたな」
「名工もそろそろ休み時ですね、父上。もうすぐ孫が産まれるそうですよ」
「ガトーの孫か……あいつ、メロメロになりそうだな」
モラセス王とザッハの親子が城の中庭でテーブルを挟みそんな会話をしていると、金髪の青年騎士……スタードの息子、フレスがやって来た。
「あれ、どうしたんだい?」
「いえ、その、私事で申し訳ないのですが……」
「なんだ、聖依獣の娘とついに結婚することが決まったのか?」
王がからかってやるとフレスは面白いくらいに真っ赤になってしまう。
意地の悪い父をたしなめると、ザッハが話を引き継いだ。
「それで、休みが欲しいのかい?」
「……勿論今すぐではないのですが、落ち着いたらしばらく……」
「いいだろう。お前もよく働いてくれたしな」
「あ、ありがとうございますっ!」
フレスはぱぁっと顔を輝かせると、お手本のような一礼をした。
「けど騎士団のことなら騎士団で話を通せば済むんじゃないのかい? どうしてここに……」
「……モラセス王に、結んでいただいた縁ですから」
元はといえば、モラセス王が城を飛び出して聖依獣の隠れ里に行った時に道連れ……ではなく、供としてフレスが連れて来られたのが始まりだった。
魔物の翼を生やした王に抱えられての空の旅は心臓に悪かったが、そこでの出会いが彼の運命を変えたといえるだろう。
と、
「なるほど、モラセス王はキューピッドという訳か」
「グラッセ!?」
いきなり現れた黒ずくめの騎士、グラッセに慌てて飛び退くフレス。
いつの間にか仮面を外すようになったグラッセは顔立ちこそオグマに似ているものの、その性格で全然顔つきが違うな、とザッハは思った。
「父上がキューピッドだなんて面白いことを言うね、グラッセ。イメージに全然似合わないよ」
「笑えるだろう?」
「ああ、笑える」
ザッハとグラッセのやりとりを、間に挟まれてひやひやしながら聞いているフレス。
「お前らなあ」と言いながらモラセス王は笑っていた。
『毎日賑やかね、モラセス』
「そうだろう、カミベル」
椅子とセットの白いテーブルの上には、見事な細工の施された青い小箱。
モラセスはそちらに視線を移し、次いで自らの胸をそっと撫でる。
(この世界も、そこに生きる者達も、なかなか良いものだろう……なあ?)
呼び掛けは、自分の中に宿る魔物へ。
返事はなかったが、モラセスの表情は満足げであった。
空からすっかり隕石は消え、一度は混乱に包まれた世界も次第に落ち着きを取り戻し、元の穏やかな日常へと戻ろうとしている。
「魔物に襲われた街も復興が進み、眷属の残党はガトーの作った腕輪がある程度普及することで騎士団や傭兵でも対処できるようになった……本当に、皆よくやってくれたな」
「名工もそろそろ休み時ですね、父上。もうすぐ孫が産まれるそうですよ」
「ガトーの孫か……あいつ、メロメロになりそうだな」
モラセス王とザッハの親子が城の中庭でテーブルを挟みそんな会話をしていると、金髪の青年騎士……スタードの息子、フレスがやって来た。
「あれ、どうしたんだい?」
「いえ、その、私事で申し訳ないのですが……」
「なんだ、聖依獣の娘とついに結婚することが決まったのか?」
王がからかってやるとフレスは面白いくらいに真っ赤になってしまう。
意地の悪い父をたしなめると、ザッハが話を引き継いだ。
「それで、休みが欲しいのかい?」
「……勿論今すぐではないのですが、落ち着いたらしばらく……」
「いいだろう。お前もよく働いてくれたしな」
「あ、ありがとうございますっ!」
フレスはぱぁっと顔を輝かせると、お手本のような一礼をした。
「けど騎士団のことなら騎士団で話を通せば済むんじゃないのかい? どうしてここに……」
「……モラセス王に、結んでいただいた縁ですから」
元はといえば、モラセス王が城を飛び出して聖依獣の隠れ里に行った時に道連れ……ではなく、供としてフレスが連れて来られたのが始まりだった。
魔物の翼を生やした王に抱えられての空の旅は心臓に悪かったが、そこでの出会いが彼の運命を変えたといえるだろう。
と、
「なるほど、モラセス王はキューピッドという訳か」
「グラッセ!?」
いきなり現れた黒ずくめの騎士、グラッセに慌てて飛び退くフレス。
いつの間にか仮面を外すようになったグラッセは顔立ちこそオグマに似ているものの、その性格で全然顔つきが違うな、とザッハは思った。
「父上がキューピッドだなんて面白いことを言うね、グラッセ。イメージに全然似合わないよ」
「笑えるだろう?」
「ああ、笑える」
ザッハとグラッセのやりとりを、間に挟まれてひやひやしながら聞いているフレス。
「お前らなあ」と言いながらモラセス王は笑っていた。
『毎日賑やかね、モラセス』
「そうだろう、カミベル」
椅子とセットの白いテーブルの上には、見事な細工の施された青い小箱。
モラセスはそちらに視線を移し、次いで自らの胸をそっと撫でる。
(この世界も、そこに生きる者達も、なかなか良いものだろう……なあ?)
呼び掛けは、自分の中に宿る魔物へ。
返事はなかったが、モラセスの表情は満足げであった。