~交わる、その先へ~

 心の精霊となったルセットの力で、離れ離れにされた仲間達の無事を確認できた一行は、それぞれツギハギの塔内を上へと進む。

「……祖母と再会した割には、随分あっさりしておるのだな」

 積もる話はないのか、泣きつきたくはならないのか。
 そんな疑問も含めて、シュクルがミレニアを窺う。

「そういうのは帰ってからじゃ。まだ気を抜いたらいかんからのう」
『ブッ飛ばすものをブッ飛ばしてからじゃないと、おちおち話もできぬわ』

 そう語る孫と祖母の横顔はよく似ていた。

《相変わらず血の気の多い女だ》
「似た者夫婦ってやつじゃ……」
《何か言ったか、デュランダル・ロッシェ》

 通信機から発せられた鋭い声に思わず目をそらし、口笛でごまかすデュー。
『こんな所で口笛を吹くとろくなものが出ませんよ』と契約精霊にたしなめられた直後。

「皆、しばし待つでござる」

 カッセが先頭に出て注意を促し、武器を構える。
 これまでの通路からうってかわって広い場所に出た彼等の前に、待ち受けるように佇む巨躯が一体……と、周りに涌き出る魍魎。

 シュクルの体毛が逆立ち、恐らくカッセも身を包む衣服の下で同様に警戒をあらわにしているのだろう、赤銅の瞳が真昼の猫のようにきゅっと縦長になった。

 巨人型の魔物はより人間に近い風貌がかえって不気味さを増し、その辺にいるものより明らかに強者だ、と彼等の直感が告げる。

「これまでの魔物とは違う……厭な気配だ」
「いかにもランクが上のヤツが意味ありげにどっかり構えて待ち伏せか……さしずめ門番みたいなものかのう?」

 ミレニアの呟きに応えるように魔物が立ち上がる。

「来るぞっ!」

 魔物は全身をバネにして、鈍重そうな見た目からは想像もつかない速度でデュー達の中心に飛び込んだ。
 一瞬でも散開が遅れれば、一行の運命は鈍い音を立てて抉れた地面と同じだっただろう。

「ひやー、恐ろしいパワーじゃのう」
「けど、これからこいつらの天辺に殴り込みに行くんだ。こんな所でてこずってらんないぜ」
「そうでござるな」

 デューとカッセが互いに目配せをすると別々に駆け出し、周りを囲む魔物の群れを蹴散らし始める。

 その動きは、ミレニアを中心に円を描くようで……

『やっちまえ、ミレニアぁ!』
「おう、なのじゃ!」

 次いで、爆音。

 詠唱時間を稼いだミレニアの火術が起こした爆発が、一瞬辺りを支配した。
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