~継がれる想い、繋がる心~

――大好きな祖母の命は、自分のために喪われた。

 あの日あの時、遊びに行こうと言わなければ。

 魔物の恐怖に竦んでさえいなければ……――



 “総てに餓えし者”の勝ち誇った笑い声が響く、ツギハギの塔内部。

「ミレニア、ミレニアっ!」

 デューが必死に呼び掛ける先で、黒い靄に小さな体の殆どを呑み込まれたミレニアが、涙に濡れた虚ろな目を閉じようとしていた。

「これは……っ」

 彼女を支配するのは、紛れもない負の感情。

「強い哀しみ、自己嫌悪……だがミレニア殿にはどうしようもなかった事でござろう……!」
「けど、自分が同じ立場だったらずっと悔やんで引き摺るような事だったろ。ましてばーさんが記憶を消してまで自分の心を守ろうとしたこと、当たり前だけど何も知らずここまで来たミレニアには……嫌なとこ突いてきやがる」

 吐き捨てるように言うと、どこかで見ているであろう“総てに餓えし者”を睨むデュー。
 その横で、弱々しく炎が揺らめいた。

『……胸糞悪ぃ』
『豪腕の焔、いたのですか……貴方がついていながら、これは……』
『ミレニアにはずっと呼び掛けてた! さっきから俺様の声も届かねえんだよ!』
『精霊との繋がりを一時的に断つ術、ですか……これまでに得た人間の知識を利用したのですね』

 そう、隙は一時あればいい。

 その僅かな間にミレニアの心を堕とすには、封印された記憶はうってつけだったのだ。

 大切な者の死……それも“自分の軽率な行動が引き金となった”のだから。

「あんな精神状態じゃ、無理矢理浄化だけしてもダメだ。もう一度あいつの意識を呼び戻すには、どうすれば……」

 と、そこに場に不似合いな無機質で軽い音……魔学通信機の呼び出し音が鳴り響く。

「こんな時に何だよ、今取り込み中……」
《俺だ》

 主君だ。

「「「……え?」」」

 本当に空気も読まず割り込んだモラセス王の声に、デューとカッセとシュクルは揃って凍りつくのだった。
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