~暗闇の牢獄~
中央大陸の西側、港と王都の中間に位置し、人と物が行き交う街アセンブル。
いつもは市場の商人達のおかげで明るく活気のある場所なのだが……
「世界は滅んでしまうのかしら……」
「あんな隕石、どこに逃げたらいいんだ!」
ふてぶてしくそびえるツギハギの塔と今にも落ちてきそうな隕石を前に、ざわめく声があちこちで聞こえる。
絶望を見せられ、死を間近に突きつけられた住人はやはり、パニックに陥っていた。
「ちょっとぉ、なんなのよこのフインキぃ……」
そんな中で同様に空を見上げる不機嫌そうな女性……アンバーローズの長い髪を高く二つ結びにした、目のやり場に困りそうな格好の彼女は、格闘娘のエクレア。
不穏な空気に肌を粟立たせ、よぎるのは以前の記憶。
(やだ、この感じ……あの時、変なバケモノが入ってきたのと似てる……!)
シブーストとアセンブルの間にある洞窟で魔物に取り憑かれ暴走した時のことは、彼女の心に少なからず爪痕を残していた。
ぎゅ、と防衛本能から己を抱き締め後退りをするエクレアの肩に、壁のようなものが当たる。
「あっ、」
「うわ、どうしたんだお前、顔色悪いぞ?」
「……なによ、バカレムじゃない」
冷えた肌に触れたラクレムの手は、温かくて。
じんわり伝わるそれにエクレアはざわついた心が僅かだがしずまっていくのを感じた。
「アンタにもわかるでしょ? 世界が終わろうとしてんのよ。だから今ちょー空気悪いの」
「むう、それは困るな。あのでかい岩みたいなののせいか!」
「ってアンタ……さっきの変な声、聞かなかったの?」
「ああ、そういえばなんかうるさかったな」
あっけらかんと返したラクレムには、あれだけ派手に演出された“総てに餓えし者”の声もそんな風に片付けられてしまったようだ。
それどころか、
「安心しろエクレア、世界は滅びない」
「はぁ? なに言っちゃってるワケぇ?」
自信満々にこんなことを言い出す彼を、プラム色の猫目が睨んだ。
「なんなのその自信……根拠はあるの?」
「コンキョ?」
するとラクレムは一瞬考え込み、
「この俺様がいるだろう!」
そう言い放つ。
エクレア自身もあまり難しく考えるのは得意な方ではないが、さすがにこの返答には開いた口が塞がらなかった。
……だが、
「……なーんか、そこまで堂々と言われると逆に大丈夫な気がしてきたわ……うん、よし!」
ぱぁん、と小気味いい音をさせて、エクレアは己の両頬をてのひらで叩く。
「あんな意味わかんないのに負けてらんないもんね!」
「「「その通り!」」」
「え?」
彼女の奮起に呼応したみっつの声。
振り向くと、そこには黒を基調としたコスチュームに身を包んだ三人組がいた。
「こんな状況に立ち向かって戦ってるやつらがいることをオラ達は知っているんでガス!」
「だから彼等を信じ、我々は我々の戦いをするのだ!」
「結界のないこの街に魔物を近付けさせないでって、フローレットお嬢様にお願いされちゃったからね!」
三人組はバランスよく並び立つと、一呼吸おいて動き出す。
「ウォール!」
大柄な男が勇ましいポーズをとる。
「マカデミア!」
妖艶な女性がセクシーに決める。
「カシュー!!」
そしてリーダーらしく真ん中でポーズをとる青年。
「「「三人揃って我ら漆黒の」」」
「そうか、お前らも戦うのか! なんだか頼りないがよろしくな!」
お決まりの流れを遮るラクレムに、とうとう名乗れなかった漆黒のなんちゃらは盛大にずっこけた。
「なにこれ……世界が大変だってのに、ばっかみたい」
あまりの緊張感のなさに呆れるエクレアだが、その口許は笑みを浮かべているのであった。
いつもは市場の商人達のおかげで明るく活気のある場所なのだが……
「世界は滅んでしまうのかしら……」
「あんな隕石、どこに逃げたらいいんだ!」
ふてぶてしくそびえるツギハギの塔と今にも落ちてきそうな隕石を前に、ざわめく声があちこちで聞こえる。
絶望を見せられ、死を間近に突きつけられた住人はやはり、パニックに陥っていた。
「ちょっとぉ、なんなのよこのフインキぃ……」
そんな中で同様に空を見上げる不機嫌そうな女性……アンバーローズの長い髪を高く二つ結びにした、目のやり場に困りそうな格好の彼女は、格闘娘のエクレア。
不穏な空気に肌を粟立たせ、よぎるのは以前の記憶。
(やだ、この感じ……あの時、変なバケモノが入ってきたのと似てる……!)
シブーストとアセンブルの間にある洞窟で魔物に取り憑かれ暴走した時のことは、彼女の心に少なからず爪痕を残していた。
ぎゅ、と防衛本能から己を抱き締め後退りをするエクレアの肩に、壁のようなものが当たる。
「あっ、」
「うわ、どうしたんだお前、顔色悪いぞ?」
「……なによ、バカレムじゃない」
冷えた肌に触れたラクレムの手は、温かくて。
じんわり伝わるそれにエクレアはざわついた心が僅かだがしずまっていくのを感じた。
「アンタにもわかるでしょ? 世界が終わろうとしてんのよ。だから今ちょー空気悪いの」
「むう、それは困るな。あのでかい岩みたいなののせいか!」
「ってアンタ……さっきの変な声、聞かなかったの?」
「ああ、そういえばなんかうるさかったな」
あっけらかんと返したラクレムには、あれだけ派手に演出された“総てに餓えし者”の声もそんな風に片付けられてしまったようだ。
それどころか、
「安心しろエクレア、世界は滅びない」
「はぁ? なに言っちゃってるワケぇ?」
自信満々にこんなことを言い出す彼を、プラム色の猫目が睨んだ。
「なんなのその自信……根拠はあるの?」
「コンキョ?」
するとラクレムは一瞬考え込み、
「この俺様がいるだろう!」
そう言い放つ。
エクレア自身もあまり難しく考えるのは得意な方ではないが、さすがにこの返答には開いた口が塞がらなかった。
……だが、
「……なーんか、そこまで堂々と言われると逆に大丈夫な気がしてきたわ……うん、よし!」
ぱぁん、と小気味いい音をさせて、エクレアは己の両頬をてのひらで叩く。
「あんな意味わかんないのに負けてらんないもんね!」
「「「その通り!」」」
「え?」
彼女の奮起に呼応したみっつの声。
振り向くと、そこには黒を基調としたコスチュームに身を包んだ三人組がいた。
「こんな状況に立ち向かって戦ってるやつらがいることをオラ達は知っているんでガス!」
「だから彼等を信じ、我々は我々の戦いをするのだ!」
「結界のないこの街に魔物を近付けさせないでって、フローレットお嬢様にお願いされちゃったからね!」
三人組はバランスよく並び立つと、一呼吸おいて動き出す。
「ウォール!」
大柄な男が勇ましいポーズをとる。
「マカデミア!」
妖艶な女性がセクシーに決める。
「カシュー!!」
そしてリーダーらしく真ん中でポーズをとる青年。
「「「三人揃って我ら漆黒の」」」
「そうか、お前らも戦うのか! なんだか頼りないがよろしくな!」
お決まりの流れを遮るラクレムに、とうとう名乗れなかった漆黒のなんちゃらは盛大にずっこけた。
「なにこれ……世界が大変だってのに、ばっかみたい」
あまりの緊張感のなさに呆れるエクレアだが、その口許は笑みを浮かべているのであった。
