~仇敵の腹の中で~

―ツギハギの搭―

 “総てに餓えし者”によって喰い尽くされ崩壊したアラムンドの残骸を集めて造り出された搭は大地だった箇所とかつて帝都の建造物であったのだろう人工物の箇所とで、ミレニアが名付けた通りの継ぎ接ぎ状態となっていた。

「急ごしらえの割には、中は結構しっかりしてるんだなぁ……無理矢理くっつけてるだけあってちょっと歩きにくいけど」

 草まで生えたような地面のすぐ隣に民家の床があったり、障気の結晶があちこちに突き出ていたりと足場が悪く、油断すればなにかに蹴躓いてしまいそうだ。

「なんというか、混沌としているな……」
『いかにも奴のねぐららしいな』

 スタードの呟きに、万物の王が周囲を睨み付けながら吐き捨てる。
 ただでさえ調和を司る源精霊にはこの混沌は不快なのだろうが、積年の宿敵の居城となればなおさらだ。

「さてさて、どんなアトラクションでおもてなししてくれるのかしらね」
「何が待ち受けているかわからない。油断せずに進もう」

 イシェルナとオグマが先を見据え、進むべく促す。
 緩やかな登り坂の先には階段も見え、どうやらしばらくは道なりに行けばいいようだ。

 何かがあるとするならさらに奥だろうか、それとも……

 皆が口を閉じると、ドクン、ドクンと不気味な音が響いた。
 それはこの搭が生きているかのように、建物全体から聞こえている。

「何かしら、この音……嫌な感じですね」
「それでも行くしかないのでござろう」

 フィノが不安に杖を抱き締めると、その拍子に涼やかな鳴子の音色が奏でられる。

「変な音が聞こえないようにどんちゃん騒ぎしながら進みますか?」
「居場所をわざわざ知らせてどうするんだよ」
「場をなごませる冗談ですってば」

 緊張に身をかたくしているフィノやシュクルにウインクして見せるリュナン。
 ここは既に敵の腹の中、警戒するに越したことはないが必要以上の緊張も時には咄嗟の判断の妨げになってしまうだろう。

『搭の内部のマナが穢れていく……あまり長居も、放置もできませんね』
『障気の塊、巨大な牙が生えたみたいなもんだからな。突入したのがお前らじゃなかったらイチコロだ』

 水辺の乙女と豪腕の焔が周囲のマナを探りながらそう言った。

「ほっとくとここだけじゃ済まないってか。隕石が落ちなくても、じわじわと首を絞める用意は出来てる訳だな」
「まずは世界中に湧き出した障気を止められれば、人々の恐怖も和らぐかもしれないな……隕石の前では気休めのようなものだが」

 上からは隕石、下からは障気と魔物。
 迫る恐怖を突きつけられ煽られた人々の負の感情を集めて引き寄せられる隕石を防ぐためには、何から手をつければいいのか。

 目の前に立ちはだかる問題の山と、どこまでも続きそうな高い搭を見上げ、一同は溜め息を吐くのだった。
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