~決戦を前に~

 “総てに餓えし者”らしき声により告げられたアラカルティアの滅亡。
 すぐそこまで来ている隕石がそのまま落ちてこないのは、人々の恐怖を煽るためか。

《お前たちの恐怖が、負の感情が、あの隕石を更に引き寄せる。だが怯えずにはいられまい……お前らは自分の恐怖で死を早めるんだよ!》

 歪んだ高笑いを最後に全員を襲った重圧は消え、玉座の間にしばし静寂が訪れた。

『ふーむ、なるほどのー……』

 やはりどこか口調のぶれた魔物の言葉から、聖依獣の長老ムースは何かに思い当たったようだ。

『あやつがやっている事は、恐らく召喚の一種じゃろー。負の感情を引き金に隕石を呼び寄せる、そんな術をどこかで行ってそれを見せつけてやれば、あとは勝手に恐怖や絶望が集まってくる……そういうからくりじゃ。やらしーのー』
「ならどこかにいるアイツを止めれば……」
『或いは、のー。隕石が近付きすぎると、奴を止めても手遅れになる可能性もあるが』
「普通はあんなの見せられて、怖がるなって方が無理な話だものね……」

 既に自分達は後手に回ってしまっている。
 相手が余裕を見せているとはいえ、あまりもたもたしてはいられないだろう。

「けど、このままみすみすあいつの思う通りに運ばれてたまるかよ」

 静かな声でそう呟いたデューの目に、諦めの色はなかった。

「あいつの居場所はたぶん、出来立てほやほやで急ごしらえの、あの塔だろう。何とかと煙は高い所が好きって言うしな」
「だがデュー、あの塔は目立ち過ぎる。逆に囮という可能性は……」

 相手を侮ったようにも聞こえる少年剣士の言葉をオグマが注意すると、いや、と返し、

「どちらかというと、あそこに辿り着けないようにしてあるか、内部に罠が仕掛けてある可能性かな……直感だけど」
「奇遇じゃのう。わしも同意見じゃ」

 ミレニアもそれに頷いた。

「自信満々で迎え撃つってことですかね……ったく、ここまできたらやるしかないでしょ」
「この世界をこんなにして……許せません!」

 リュナンとフィノ、それに他の仲間達の心も折れていないようで、フレスとザッハ、それにグラッセが顔を見合わせた。

「この状況で、真っ直ぐに前を見据えている……」
「強い人達なんだ。けど、ちょっとイケイケ過ぎかな」

 それを聞いたグラッセが「呆れる程にな」と付け加える。

 だから、とザッハの視線がフレスの腕につけられた名工の腕輪に落とされる。

「僕達は僕達で、彼等のサポートをするんだ。やれる事は沢山あるよ」
「……はい!」

 フレスの声に応えるように、腕輪がキラリと光ったような気がした。
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