~滅びの発信~

 王都の貴族街に聳える、花に囲まれた広大な屋敷。
 そのよく手入れの行き届いた庭に佇み、結界を隔てた空を見上げていたのは、トランシュの婚約者であるフローレット。

「どうかしましたか、フローレットお嬢様?」
「空が……」

 彼女が指し示した先を、もはやすっかりここの使用人として馴染んだカシューが追った。

 すると、

「なんだ、あれは……!」

 彼等の目に映ったのは、ついさっきまではなかったもの。
 どんより黒く染まりつつある空と、中心地に出現した塔のような物体だった。

 アラカルティアの空にそのようなものが現れたことなど、なかったはずだ。

(トランシュ……大丈夫、よね?)

 フローレットは心の中で、遠く離れた恋人の名を呼ぶ。

 彼女に限らず、同時刻同じものを見た多くの人々が、強い不安を感じていたという。

――――

 この世界に訪れた災厄の元凶“総てに餓えし者”を打ち倒したデュー達はその直後にアラムンドの崩壊に遭遇した。

 そして時精霊の空間転移でアラカルティアに戻ると、崩れたアラムンドの大地が集まって、天にも届きそうな建造物が形作られようとしていて……

 一度に沢山のことがありすぎて理解が追い付かない一行は、通信機越しに呼び掛けるザッハの声に従って王都に戻ることにした。

 そして、場所は変わってマーブラム城・玉座の間。

「まずは無事で良かった。おかえり、みんな」

 本来なら両手を上げて喜び迎えたいところだがザッハやこの場にいる者達の誰もが浮かない様子なのは、尋常ではない異変を目の当たりにしたからだろう。

「まずは互いの情報を交換して、状況を把握するぞ。新顔もいるようだが、そちらでは何があった?」
「!」

 新顔、でモラセスとダクワーズの視線がかち合う。

(あれが現在のグランマニエ王……ランシッド様の、遠い子孫か……)

 遥かに年上であるモラセスを、複雑な心境で見上げるダクワーズ。
 事実として聞いて理解はしているが、気の遠くなるような長い眠りから覚めたばかりの彼女は、感覚がまだ追い付いていなかった。

 と、

「……ご報告致します」

 アラムンドでのことを説明するべく、スタードが玉座の王に進み出る。

 彼の言葉を受け、すう、と赤い目を細めるモラセス王には、確かにランシッド王の面影は残っていた。
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