第五部・~暗雲~

 真っ白な障気の結晶が茨の森を形作ったおぞましい空間を抜け出すと、平地にそびえる巨大な建造物……否、デュー達が乗ってきたブラックカーラント号が見えた。

「な、なんだこれは……亀が船を背負っているのか?」

 きょとんとするダクワーズに「まあ最初は驚くよな」とデューが笑いかける。
 するとトランシュ、正確には彼が持つ宝剣の方から刺すような視線を感じた。

(もともと独占欲強そうだとは思ったけど、これくらいで睨むなよ……第一、今のオレはダクワーズから見たらお子様なんだろが)

 先に彼女を休ませようと自己紹介もろくに済ませずここまで来たため、ダクワーズはデュー達のことをまだよく知らない。
 もちろん、子供の姿をしているデューの本当の年齢も。

「んじゃ行こうぜ、ダクワーズさん。詳しい話は船でゆっくりと……な?」
「あ、ああ」

 デューは背後を一瞥し、にやりと笑って見せるとわざとらしく触れながらダクワーズの手を引いた。

『ちょっとちょっとー!』
「デュー殿は性格が悪い故、いちいち反応すると余計からかわれるでござるよ……ランシッド殿」
「なのじゃ」

 思わず姿を現したランシッドをそう言って宥めたのは、目の前を歩く少年剣士の実態をよく知る仲間達なのだった。

「デュランは美人が大好きだからね。気を付けた方がいいですよ、ダクワーズさん」
「びっ、美人!?」

 トランシュの口から発せられたあまり言われ慣れない言葉に反応して硬直したダクワーズは、みるみる赤くなって「冗談はやめてくれ」と俯く。

「あらあら♪」
「ダクワーズさん、可愛い……」

 デューのこういった言動に対してのそれは新鮮な反応だったため、周囲は微笑ましく見守っていたが……

『これは……思ったより危険だぞ、ランシッド』
『うるさいなもう! とっとと行くよ、ブラックカーラント号に!』

 約一名、冗談とわかっていても気が気じゃなかったとかなんとか。
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