~おわりとはじまり~

《ぐ、うう……》

 呻くのは二人分のそれではなく“総てに餓えし者”単体の声。

 これまでに蓄積されたダメージに加え、リュナンが全力をこめて放った一撃をまともに受けた魔物は、取り憑いていたダクワーズの身体から強制的に剥離されかけていた。

「引き剥がされていく……浄化されて弱っているんでしょうか?」
『それもあるだろうが、だが……』

 皆の視線の集まる先で苦悶に歪みながら、ダクワーズから離れていく“総てに餓えし者”。

《くそ、まだそんな力が……》

 その言葉は、地に伏せる彼女に向けられているようだった。

『……やっぱり、お前なんだな』

 ふ、とランシッドが微笑む。
 それとほぼ同時に、ダクワーズの指がぴくりと動き、強く握り拳を作った。

《何故そんな力が出せる……もう精霊王の加護もない、弱りきったお前が……!》
「人間を、この世界に生きる者を……甘く見るなと、言ったはずだ……」

 魔物の言葉通り弱っているのか苦しそうに絞り出した声は、けれども強い意志を乗せて。

「私から、出ていけっ!」
《ぐおおっ!?》

 その叫びと共にダクワーズの全身から強い光が放たれ、ついに魔物は追い出された。

「くっ……はぁ、はぁっ……」
『ダク、ワーズ……』

 しかしそれが今の精一杯だったのか、起こしかけた上体ががくりと力尽き、また地に横たえてしまう。

「……ランシッド、様……」
『ダクワーズっ!』

 とうの昔に人としての生を終え精霊となったランシッドは文字通り飛んで、倒れたダクワーズのもとに駆けつける。

……夢じゃない。

 もしかしたらあの状況で生きているかもしれないと、心のどこかで期待しながらもそれを意識しないようにしていた。

 最悪の事態でも絶望しないように、諦めるように己に言い聞かせていた。

『……やっぱり諦めきれなかった。お前を取り戻すことを……』

 大精霊になって、というよりも生前だって久しく流していなかった熱い滴がランシッドの両の目から溢れ出す。
 それを見たダクワーズは一瞬きょとんとするが、

「馬鹿、ですね、貴方は……」

 ふふ、と笑うと同様に涙を流すのだった。
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