~“たかが人間”の力~(スキットなし)

 遥か昔に災厄が降り、そして封じられた地にて。
 障気を生み出す白い牙が無数に生え、茨の森となったそこの中心地へ、ロゼットの案内で走るデュー、ミレニア、トランシュ、それにシュクル。

「妖精さんに導かれて、なんていよいよおとぎ話みたいじゃの」
『どっちかというとオバケみたいなものですけど……妖精さんの方が可愛くていいですね』

 ふふ、と笑みをこぼす今のロゼットの姿は、小さくて儚い光の珠。
 もうじき結界と共に消えてしまうであろう彼女は、最後の力を振り絞ってデュー達を助けているのだ。

『もうすぐです、もうすぐ……あっ!』

 狭い路地を抜けた先で、ロゼットが声をあげる。

 本来ならばそこにあるはずのものが、ない。

 それに次に気付いたのは、ここに来たことがある精霊王だった。

『奴の姿と、結界が……ないだと!? まさか、もう奴が……』
「なんだって!?」

 その時、カツン、と靴音が響いた。
 咄嗟にそちらを向くと、青年……いや、それと間違われるような長身の、ランシッドや精霊王がよく見知った女性が、茨の奥から歩いてきた。

『ダク、ワーズ』

 彼女の名前を呟いたランシッドが実体化して、姿を現す。
 するとダクワーズの切れ長の目がぱちくりと瞬き、不思議そうな顔をした。

「ランシッド様……?」

 しばらく見つめあっていた二人だったが、ややあって、ダクワーズの方からランシッドに駆け寄る。

「ランシッド様っ! ずっと、ずっとお逢いしたかった……!」

 そのまま抱きつくダクワーズに「熱烈だな……」とシュクルが赤面する。
 しかしランシッドはかつての想い人のそんな積極的で可愛らしい素振りにも反応を示さず、そっと押し戻して冷たい目で見下ろした。

『……“総てに餓えし者”は?』

 ランシッドにしては珍しい、業務的な淡々とした声音。

「わかりません。気付いたらここにいて……ですが、ランシッド様にお逢いできて、本当に……」
『ダクワーズならまず先に、あの戦いで多くの部下を喪ったことを悔やみ、謝罪すると思ったんだがな……“あいつ”は何よりも騎士団長であろうとした、部下想いの奴だから』

 この偽者め。

 吐き捨てるようにそう言われたダクワーズの、金色の目が大きく見開かれた。
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